第2話 狼王の拠点

「くろな、そのこだれ?」


 クロナの服を着ながら、ローナはユナの方を見る。


「私はユナ」

「ゆな?」

「そう、ユナ」

「ゆな!! ゆな!! あたしろーな、よろしく!!」

「よろしくねローナちゃん」


 挨拶も済ませ、僕らはローナの住んでいる狼の園へ向かう事にした。


「敵が多いな」


 道中、鳥系や獣系、果ては粘液系の魔物まで出てくる始末だ。

 これは、中々に厄介かもしれない。

 そうして蹴散らしていきながら、僕らは先に進んでいく。

 何かおかしい!!

 ユナを抱え離脱すると、その後から溶解液が僕らのいた場所に落ちる。

 

「面倒だな」


 溶解液を使う相手となれば、冒険者の中でもBランクに相当する面倒な魔物、溶解型の蜘蛛タラテクトだ。

 こいつの厄介なのは溶解液であらゆる武器を解かす面倒な敵だ。

 効果的なのは火炎系の魔法で、溶解液事燃やし尽くすことで対処は可能だ。

 だが、こいつらも魔物で知能がある。

 魔力がある即ち、水魔法が使えるという事で中々に面倒な相手なのだ。

 まぁ、クロナが相手じゃなかったらの話だけどね。

 クロナは詠唱を始める。

 

「我ら炎を纏いてあらゆる攻撃燃やし尽くさん、ほむら翼手よくしゅ


 クロナが詠唱を終えると、背中から紅蓮の炎を纏った翼が現れると同時にクロナの髪と瞳も紅く染まる。

 クロナが優雅に舞い上がり、手を翳すと羽が一気に彼女の手に集まる。

 

火炎羽弾かえん・はだん!!」


 瞬間、渦を巻きながら炎の弾は蜘蛛に向かって一気に襲い掛かる。

 当然、蜘蛛は身体の中で水を生成して放つ。

 しかし、炎の弾の勢いが弱まることはなく、クロナの放った弾は水の攻撃を燃やし尽くし蜘蛛に直撃し、蜘蛛の身体は爆散した。

 我が妹ながら強すぎないか?

 

「このまま最小限に展開しながら進む」


 そう言って彼女は羽をしまうと、僕らは先へ進んでいくと、ローナの村に着く。

 幸い、この拠点は仲間以外はたどり着けないよう結界が張られている為、襲われていない様だ。

 ここはクロナが作った結界で、彼女達が元気で仲良く暮らせるようにと想いを込めて作った結界なので、そうそう辿り着いたりできないようにされているのでここまではこれなかったのだ。


「ローナ姉!! よかった!!」


 ローナの顔を見てほっとするように六人が安堵の表情を浮かべた。


「てぃん・えりす・ふぃりす・りあ・にあ・ろろ、戻ったよ!!」


 ティン・エリス・フィリス・リア・ニア・ロロ?


 六人はローナが同族で友達になった子達で、まさかこの子達も獣人になっているのは驚きだった。

 

「久しぶりだな、無事で何よりだ」


 ティンとロロは涙を必死に抑え、残りの女性陣は涙を流す。

 そうして僕らはそれぞれ落ち着くまで待つと、本題に入る。


「リア、状況を説明してくれ」

「わかった。 現在部下30匹が偵察に出て5匹が死亡、15匹が軽傷で残りが重傷という被害だわ」


 現在、狼の里は彼女らを含め100匹程度いる。

 その内戦闘ができるのは70名で約半数に被害が出ていて深刻な状態だ。

 

「私達が確認した強力な魔物は毒系の蜘蛛と翼竜があちこちにいるらしいわ」


 翼竜もいるのか、これはまた面倒な魔物が多い事だ。


「他にも武装した人影を見たって言ってた」


 武装した影の正体は大規模に動き出した魔物の調査で来たか、あるいはそれに便乗した盗賊、もしくは魔物を操っている首謀者だ。

 そもそも、魔物は基本的にあまり群れない特に竜系は最上位の龍の命令以外は受けないに加え、毒系の蜘蛛も基本的に魔力の濃い場所に生息しているし、そもそも龍が居れば蜘蛛は争うか逃げるの二択を行う。

 共闘するなんてありえないことはないが、無い事はない。

 考えれば考える程、可能性が広がっていきこんがらがってくる。


「兄、どうする?」


 行くならその目撃場所に手がかりがあるが、外は四方八方敵だらけだ。

 行くのなら精鋭で行くしかない。

 

「その人影は何処で見たかわかるか?」

「報告書に書いてあるから、後で印して地図渡すわ」

「助かる。 後、この中から数人借りたいんだが、いいか?」

「それは構わないけど、行ってくるの?」

「あぁ、偵察に行こうと思う」

「ならエリス、フィリスの二人を連れてってください」


 翠髪の三つ編みのエリスと髪を横で結んでいるフィリスを見てそういうと、ローナが彼女の裾を引っ張ると「あたしはだめ?」とリアに上目遣いで意見を述べる。


「強い戦力を集中しすぎだわ、五人ずつが適任だと思うの」


 ローナは元気一杯に「そっか、わかった!!」と返事をする。

 昔からローナは考えるのが苦手なので、全てリアに任せている。


「レウ兄もこれで大丈夫かしら?」


 彼女の問いに僕は「うん、大丈夫だよ」と答える。

 ここの現場指揮はリアで彼女が決めたのなら、彼女の意見を取り入れるのは当たり前だ。

「現場の行動はレウ兄の指揮に従って」

「りょうか~い」「りょっ」


 エリスは「よろしくねぇ~、三人とも」と気怠そうに言うと、続いてフェリスも「よろっ」と片目を閉じ、元気よく言い放った。

 「よろしく」っと二人にそういうと、再びリアに視線を向ける。


「後、リア少しお願いがあるんだ」

「何かしら?」

「ユナを頼んでもいいかな?」


 魔法が使えないユナは危ないからね、今回はここに残ってもらうのが最善だと思う。

 この村の人間を知っているから、安心して任せられる。

 

「それは構わないけど……」


 リアの言いたいことは分かる。

 置いてけぼりにされそうになってユナが頬を膨らませ怒っているのだ。

 仕方ないじゃないか、まだ未熟なんだからと思うけど、ユナの性格的に納得しないよなぁ~。

 彼女はなんというか、物腰柔らかな見た目や言動に反して中々に頑固なのだ。

 ここは納得のいく説明をするか。


「ユナ、ここで癒し系の聖魔法を覚えて村の子達を治療してやってくれないか?」


 回復魔法の経験は戦場や怪我をした冒険者等を治療することで上達するので、不謹慎だが彼女にとって最高の成長の場でもあるのだ。

 

「言い方は不謹慎かもしれないが、癒し系の聖魔法を覚えるのに最適な場所だ。

加えて聖魔法は戦場より今回はこっちの方が心強い面があるからお願いできないかな?」


 不満そうだったが、「わかった」といって彼女は渋々納得してくれてよかった。

 そうしてリアと作戦についての計画を話し終え、数時間後僕らは任務に向かう事にした。

 聞いていた通り、魔物の数は異常だ。

 C級魔物が大量に湧き出てきて、面倒だ。

 幸いな事と言えば、毒系の蜘蛛が居ない事だ。

 あれが大量にいるのならいくらクロナでも限界だろう。

 

「クロナ、魔力はどのくらいある?」

「八割くらい、まだまだいける」

「一旦、消費を抑えよう。 エリスはどう?」

「私はまだ大丈夫~」

「何割くらい残ってるか言いなさいよ、じゃないと兄ちゃんがわかんないでしょ」


 「ねぇ」とこっちを見て言うので頷くと、エリスは「九割近く残ってる~」と気怠そうに言った。

 何か思い出してきた。 

 二人の行動を見て、幼い頃の面倒くさがりのエリスをフェリスがいつも引っ張っていってフェリスが「エリスがいう事聞かない~!!」って言って泣いていたのを思い出す。

 

「兄ちゃん、何笑ってるの?」

「いや、昔の事を思い出してな」

「昔の事?」

「フェリスとエリスが仲良しだなって思ってさ」


 僕の言葉に「まぁ、長い付き合いだしねぇ~」っとフェリスが答え二人は微笑む。

 連携もそうだが、二人の仲がいいのがわかる。

 そうしてそのまま戦いながら前へ進んでいくのだった。


 

 

 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る