狼王の森編

第一話 ユナの修行方針と狼王の指令書

 「終わりかな?」


 クロナとミリネの方を見ると目を見開き、驚いていた。 

 それはそうだろう。

 普通なら声を漏らすほど痛いのに、彼女は表情だけでそれほど痛そうではなかったからだ。

 クロナなんか大泣きして、ミリネは漏らしていたからな、そりゃ驚きだろうよ。


「どうしたの?」

「痛くなかった?」

「それほど痛くなかったよ」

「ユナ、無理してない?」

「大丈夫だって、心配してくれてありがとね」


 クロナは我慢しているのではないかと心配して声をかけていた。


「お疲れさまでした、こちらが検査結果です」


適性魔法結果 

 魔力B

 六大元素適性

 火 水 雷 風 聖 陰  

 5 6 2 3 1 4

 補助系魔法

 錬成 身体強化 投影

  A     S    A


 最適魔法

 身体強化・聖

 

 身体強化の中でも防御系に適性が高い。

 

 結果は以上と書かれていた。



「レイル、これどうなの?」


 本来は遠距離支援というよりは近接系だろうが、彼女の場合中遠距離がいいだろう。


「防御適性が高いし聖魔法というのもいいな……後衛で魔法で味方の回復兼防御強化系統がいいんじゃないか?」

「え~、近接系の方がいいんじゃない? 聖魔法で身体強化って祖先伝説みたいで羨ましいなぁ~」

「祖先伝説?」


 確かに言われてみればそうだな。

 祖先伝説はこの暗殺者の村で伝わる村を開拓した祖先の話だ。

 戦場では常勝無敗、たった一人で村を襲う厄災をことごとく退けた歴戦の猛者という何とも伝説に相応しい強さだったという。

 とはいえ、伝説では男だ、ユナとは違う。


「なるほど、私はその祖先さんと同系統の適性なのね」

「うん、だから私と一緒に前衛やってくれると嬉しいんだけどなぁ」


 ミリネは期待の込めた眼差しをユナに向けている。


「レイルはどっちがいいと思う?」

「僕からの提案は僕と同じ中衛職がいいと思う。 理由はミリネが前衛、クロナが後衛だから中衛がいると幅が広がるからといいかなとは思うけど、後は君が決める事だよ」

「う~ん、じゃあ、中衛やってみようかな」

「そっか、じゃあ早速だけど二週間後に任務があるんだ」


 そういうと、レイルが紙を渡してくる。


「兄、これって」

「あぁ、の討伐依頼だ」




「彼女がそんなことするはずない、だよね?」

「ん、ローナはそんなことをする子じゃない。 きっとあの老害共が何かしたに違いない」


 クロナが本気で怒っている。

 それはそうだろう、昔、村の幹部達が言葉を話すローナを厄災と決めつけ、殺すか群れに帰すかの選択肢を迫られたのだから、彼女からすればローナと引き離した幹部達が許せないだろう。

 もし、彼らが長の僕に隠れてこんなことをしようとしていたのなら、殺す。

 あの頃とは違う、今の僕等なら村中が敵に回ってもあの幹部共を殺せるだけの力がある。

 リィンさんやミラさん、クーヤさんもわかってくれるだろう。

 師匠が死んだのも彼等が無理な任務を師匠にさせたのが発端なのだから、思う所はあるし、何ならこっちに味方する可能性だってあるくらいだ。

 

統括者マスターとは話がついてる。 この一件は僕等に任せてくれるそうだ。 とはいえ、あの老いぼれ共が何かしてくるから急いだほうがいいかもしれない」

「ならどうする? ユナを村においてく?」


 どうしようか迷うが、連れて行った方がいいだろう。

 もし幹部達が本当に企んでいたとしたら、今のユナでは危険が及ぶから連れていくべきかな? クロナ、ミリネが居れば足るだろうけど、ローナの事で少し焦り気味にならないとも限らないから、ついてった方がよさそうだな。 

 

「読めないから連れてった方がいい。 大丈夫、彼女は僕が守るから……ユナ、僕から離れるなよ。 ユナ?」

「う、うん、わかった」

「よし、なら一時間後に出立、準備が整い次第僕の所に来るように」

「「了解!!」」

「りょ、了解!!」


「クロナ、あれを着させてやってくれ」

「戦闘員でもないけどいいの?」

「あぁ、これから着ることになるから、構わないよ」

「わかった」

 

 クロナは僕の部屋にある戦闘服を何着か持っていった。

 さて、準備するか。

 苦無15本、煙幕弾3にユナに渡すように全身防壁セーフリングと予備のリングは多めに7つ持っていこう。

 持っていく物でこれだけあれば大丈夫だろう。

 武器は、これでいいか。

 ユナに持たせる護身用の短剣と小さな盾を用意する。

 危ない目には遭わせる気はないが、万が一に備えて渡しておく。

 

「兄、準備でけた~」

 

 戦闘服姿の三人が入ってくる。


「ユナ、これ渡しとく」

「うん? え!?」


 何か驚くようなものがあっただろうか?

 なんかめちゃくちゃ嬉しそうだな。

 

「ありがとう、大切にするね!!」

「お、おう」


 そう言って指輪だけ受け取ると、薬指にはめる。

 あ、もしかして婚約指輪と勘違いしてるかな?


「あの、ユナさん」

「ん? 何?」


 言えない、上機嫌でキラキラした瞳をしている彼女にかなり言いにくい。


「ユナ、それそこにはめる奴じゃない」

「……え?」

「それは全身防壁、死にそうな負傷から守ってくれる。 中指にはめないと上手く発動しない」


 中指じゃなくてもいいんだが、誤解を解いてくれてありがとう!!

 

「そ、そうだよね!! うん、わかってた!!」


 嘘だよね? 

 絶対結婚指輪だと思ってたよね?

 そうして僕らは狼王いるのファングスの森に近づく。

 

「ミリネ、クロナ、頼んだよ」

「任せて!!」「ん、任せる」


 前衛はミリネ、中衛にクロナ、後衛はユナと僕という配置にした。

 基本的にいつもの二人の戦い方にすることにし、ユナを守るのを最善とすることにした。

 歩いていくと、獣の断末魔のような声が鳴り響いている。

 誰かが戦っている?


「兄、助けに行くけどいい?」

「もちろん」


 襲われているのなら助けに行かないといけない。

 それは暗殺者以前に強い者の役割だ。

 そうして向かうと、月明かりなのに目をひく長い白髪の子が剣を持って戦っている。

 

「狼達を拘束せよ、縛鎖ばくさ


 クロナが詠唱を終え手を翳すと、手から複数の鎖が広がり何匹かの獣を拘束する。

 それ以外は主にミリネが制圧し、こちらに向かってきた方は僕が対応して全ての獣を制圧する。

 白髪の子の綺麗な瞳はこっちを見る。

 

「くろな?」


 その声はとても覚えのあるつたない声だ。

 

「その声、ローナ?」

「うん!! あたし、ろーな!!」


 嬉しそうにローナと名乗った女の子はクロナに抱き着く。


「くんくん……くろなのにおいだ!! くろなくろな!!」


 このなつき具合と言葉の拙さに加えローナの毛並みのような白、彼女を狼王ローナと断定してもいいだろう。


「この子がローナ? 本当に?」

「うん? みりね? くんくん、みりねだ!!」

 

 次に匂いを嗅ぐとミリネと判断して喜んでいる。


「ローナなら聞きたいことがある」


 そう言ってこちらに視線を向けると、明らかに敵意をむき出しにした表情で僕を威嚇してきた。

 昔からローナは僕に対してはこんな感じで酷く敵意がむき出しで、酷い時は襲い掛かってくるほどだ。

 僕じゃ、話にならないか。


「クロナ、聞いてくれないか?」 

「ローナ、聞きたいことがあるんだけどいい?」

「なに?」


 あからさまだなぁ~。

 ローナは月明かりに輝くほどの可愛らしい笑みを浮かべている。

 あからさますぎて泣きそうになるわ。

 

「狼が村を襲ってる、ローナの命令?」

「うんうん。 あたし、そんなめいれいくださない。 みんなをきずつけたくないから。 よそからきたひとたちじゃないかな?」

「よそから来た人?」

「うん。さいきん、みたことのないのがあたしたちのなわばりをあらすの」


 よそから魔物が押し寄せているのか。

 それが本当なら、急いで皆で討伐に向かわなければならない。

 

「みんな、なんとかくいとめてるけど、じかんのもんだいだから、あたしがちょくせつくろなたちにおねがいにむかってたの、そしたらおそわれて……おねがいくろな、あたし、うんうん、みんなをたすけて」

「兄、どうする?」


 必死に訴えかけるローナを見て、クロナは僕に問いかける。

 本来なら行くべきだろう、否、彼女の為に行ってあげたいのが本音だ。

 だけど、今回ばかりは情報が少なすぎるのに加えて、ユナがいる。

 無理はするべきではない、わかっているのだが……。


「行こう、ユナもいいな?」

「私は構わないよ、貴方と一緒ならどこへでもついてく」

「なら行こう、二人もいいね?」

「わかった」「了解」




 

 




 


 



 


 

 



 




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る