第10話 ユナの目覚めと魔法検査

「相変わらず、師匠は強かったねぇ~。 勝てそうな気がしたんだけどなぁ~」

「ミリネは強くなってるよ」


 実際、事剣技においては彼女の方が僕なんかより圧倒的に強くなっている。

 クーヤさんの剣技を視や仮面無しで見える時点で相当な化物だ。

 

「そうかなぁ~」


 正直な話、剣技のみにおいてはもう僕は勝つことができないだろう。

 今は視で勝っているが、これもいつクーヤさんの様に対処できないようになるかわからない。

 

「うん、僕からしたら強くなってると思うよ」

「そ、そっか、えへへ」


 そうして彼女らの家によると、ユナがクロナと話していた。

 目が覚めたのか。

 

「お、ユナ、目が覚めたか。 体調はどうだ? 開拓で痛い所とかないか?」

「大丈夫そうだよ、心配してくれてありがとうね」

「それじゃ、明日協会にでも行ってみるか?」

「うん、お願いできるかな?」


 前もって協会の話はしてあるので、明日リィンのいる場所に向かう事にした。

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その日の晩

統括者マスター、こんな夜遅くにどうしました?」

 

 任務を請け負う統括者、フィンが訪ねてきた。

 これはまた面倒な依頼かな。

 統括者直々に来る案件は大抵ろくでもない物だ。

 

「もしかして、また面倒な依頼だったりします?」


 そういうと、フィンは指令書を渡してくる。

難易度C

 新たな狼王が出現、複数の狼が偵察に出てきている為、狼王の討伐をお願いします。


「何かの間違いでは?」


 間違いを疑いたかった。

 彼女が、ローナがそんなことするわけがない。

 ローナは昔クロナとミリネが共に過ごしていた狼の名で寝食を共に過ごし、人の言葉を覚えた頭のいいこだ。

 ローナは狼王、つまり今回の討伐対象はそのローナなのだ。

 賢い彼女がそんなことをするわけがない。

 きっと何かの間違いだ。

 

「わからん怪しい点も多いが、防衛ラインを超えた場合は彼女諸共狼を殲滅しなければならん、それまでの判断はお前に任せる」


 そう言ってフィンは帰っていった。

 僕一人で確かめにいくか?

 だがもし、狼達がここを襲おうと計画しているなら、一人では荷が重いのも事実だ。

次の日


「今からあうリィンさんってどんな人?」

「性格は……クロナに近いかな?」


 人見知りなうえに基本人とあまり関りを持とうとしない部分はクロナにそっくりだ。

 

「可愛いという部分以外は似てない」


 自分で言うか? 

 まぁ、可愛いんだけどさ。

 

「自分で言うか」

「兄は私、可愛くない?」

「そりゃ、まぁ妹として可愛いよ」


「私は?」

「……」


 どう答えるべきか迷う。

 クロナは可愛い系なのに対し、彼女は可愛いと綺麗両方を併せ持つので彼女の場合どっちを言ったら喜ぶのかわからないからどう答えたらいいのか迷ってしまう。

 

「ねぇねぇ、どうなの?」


 ん?

 なんか怒気混ざってない?

 なんだか、圧のような物を感じる。

 可愛いの方がいいのか?

 

「……可愛いよ」

「……えへへ」


 恐る恐るいうと、彼女は嬉しそうにしていた。

 どうやら、間違っていなかったようだ。

 そんなこんなでリィンの協会に続く部屋の最深部まで着く。

 

「リィン、開けてくれ!!」


 声を掛けるが、何も起こらない。

 多分寝てるなぁ~。

 彼女は睡眠が不規則なので寝ているか、新しい研究に没頭しているかどっちかだろう。

 

「多分寝てる」

「だねぇ~」

 

 仕方ない、無理やりはいるか。

 着替えていた時の為に先遣隊にミリネに行かせよう。

 壁に手を添え、集中する。

 

「……解析、完了」


 瞬間、この扉の解錠の構図が頭の中に浮かぶ。

 それを一つずつ丁寧に解除していく。

 そして全ての解錠を終えると、ゆっくりと扉が何重にも開かれる。


「ねぇクロナ」

「どうしたの?」

「二つの扉って、何があるの?」

「迎撃システムがある。 右は僕、左は兄考案、どっちも強力で一度入ったら私達かリィンじゃないと出れない」


 出れないことはない。

 解錠方法が知ってるか知っていないかの話だ。

 十秒は猶予があるので、落ち着いてやれば僕らでなくても出ることはできる。

 十秒経っても解除できれば出れるし、それぞれ考案の仕掛けがあるので魔力切れまで堪え切れれば出られる。

 出られる方法はいくらでもあり、僕の仕掛けは正直良心的だと思う。

 そうして階段を下りて中に入ると、地下とは思えない綺麗な青空が澄み渡る空間があった。


「ふふふ、フフフフ」


 少し先の方に、不敵な声を上げながら何かを研究している人影が見える。

 黒髪に眼鏡をかけた女性、リィン・ハートが瓶を見ながら不敵に笑っていた。


「研究熱心だな、リィン」

「あらレイル、珍しいわね。 私に会いたくなった?」

「この子の適性検査をしたい。 お願いできるか?」

「その子、見ない顔ね、その子がユナちゃん?」


 怪訝そうな顔でユナの方を見ている。

 相変わらず、人見知りが激しいな。


「初めまして、ユナです」

「ふ~ん、可愛い子ね。 私はリィン、リィン・ハートよ。 よろしくねユナ」

 

 そう言って観察するように見ると、ユナは嫌がるように僕の後ろに隠れる。

 恐らくだが、見定めるような目が嫌だったのだろう。

 

「おや、嫌われてしまったかな?」

「いえ、そんなことは……だけど、観察するように見るのは控えてくれますか?」

「あぁ、そういう事……ごめんね、仕事の癖でね、気を付けるわ」


 何かを見定めるように見るのは薬師という側面があり、仕方ないといえば仕方ない。

 

「悪いユナ、これは彼女の薬師という仕事上、どうしてもやってしまう事なんだ、許してやってくれ」

「あ、うん」


 そう言うが、彼女は僕の袖を掴んでいる。

 つい最近までそういう境遇にいたのだから、怖いのだろう。


「魔力適性ね、それじゃここに偽名で書名して」

 

 相変わらず偽名で書名って面白い表現だな。

 ユナは意味が解らないといった感じでリィンを見ている。

 気持ちはわかるぞ。 

 何言ってるかわかんないよな。


「ここにいる人間は何百年も偽名で通しているのよ、説明されてない?」

「ごめん、忘れてた」


 リィンの問いにクロナは申し訳なさそうに答えた。


「ならゆっくり考えるといいよ、そうだな、十分くらいなら待ってあげる」

「レイルは何にしてるの?」

「僕はレウルって名前にしてるよ。 意外と多いからねこの名前」


 レウルという名はこの世界で知らない者はいない程有名なおとぎ話で世界を救った勇者の一人の名だ。

 まだ魔王と勇者が居た世界で魔族と人族を今の世界に形作った英雄たちだと語り継がれている。


「じゃあ、私はラナにしようかな」

「いいんじゃないか」


 彼女の偽名にしたのはレウルと契約した精霊の名だ。

 聖魔法の使い手で火力に特化した精霊だ。 


「ラナね、少し待ってて、準備済ませるから」


 彼女が指を鳴らすと、奥から彼女お手製の自動式人形ゴーレムが現れて儀式の準備を行っている。


「あの、その人達は?」

「あぁ、自動術式人形だよ。 ゴアット、アルテナ、こっち来て」


 複数の自動人形の中からゴアットとアルテナがリィンの両隣りに立つ。


「初めまして、自動術式人形の七大権限権限の一人、アルテナです」

「同じくゴアットだ」


 アルテナは笑顔で、ゴアットは面倒くさそうに答えた。

 相変わらず人間味が凄いな。

 本来、ゴーレムに意志など存在しないだが、二人と残り五人の自動術式人形はそれぞれ意志を持っている。

 リィン曰く特殊な方法で作れるらしいが、悪用される恐れがあるため今いる意志のある七人以外は作らないらしい。


「準備が整ったようです、ユナ様、どうぞこちらに」


 アルテナに案内され向かうと、いくつもの機械の中心に大きな水晶玉があり、手前に先程記入した書類の前に水晶があった。

 これに書き込むのだ。

 

「座ってこちらの水晶に両手を翳してください。 一瞬痛みますが、手を離さないようにお願いします」

「はい」


 ユナが手に触れた瞬間、彼女の表情が少し歪む。

 やったことがあるのでわかるが、かなり痛い。

 例えるなら相手の投げた針が腕で止まり戦闘が継続する時並みに痛い。

 支えた方がいいかな?

 人によるが気絶する場合もあるそうなので、倒れた時ように支える準備をしておく。

 小さい方の水晶が光を放ち、それに呼応するかのように大きい水晶がゆっくりと光を放ち、書類の上の機械から何かが放たれる。 

 線を描くよう彼女の書いた書類に光の文字が刻まれていく。

 放たれた光線が書き終えると二つの水晶がゆっくりと光を失い、儀式が終了した。

 

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