第8話 師妹
帰宅すると、クロナが蒼髪の女性ミラさんといがみ合っていた。
何があったか大体想像できる。
クロナを揶揄って反撃を喰らったミラさんが怒って互いに激情したとそんな感じだろう。
「師匠~!!」
師匠の顔を見るなり、ミリネはクロナ達を押しのけ彼女に抱き着く。
「おっと、久しぶりだねミリネ、元気そうで何よりだ」
受け止め優しそうに彼女の頭を撫でながら金色の瞳で彼女を優しく見つめた。
「師匠!! 久しぶり!!」
「嬉しいのは分かるけど、飛び込むのはやめような。 私だからいいけど、他の人だと怪我するからね」
「わかった!!」
絶対わかってないな。
この感じは元気一杯なだけで長くいたからわかるが、絶対またやる。
「師匠、今日泊まってく!?」
「あぁ、その予定ではあるかな」
「だったら今日は一緒に寝よ!!」
「あぁ、いいよ」
「やった!!」
師妹関係が良好だなぁ~、あっちとは大違いだ。
「身長と一緒で小さい事気にしすぎ」
「そっちこそちんちくりんな脳みその癖に」
「師匠より多数詠唱できる。 ちんちくりんなのは師匠の脳みそ」
「ほう、言うようになったねぇ。 表でろクソガキ」
「望むところ、兄ちょっとこいつ懲らしめてくる」
二人とも、喧嘩っ早いなぁ~。
ここは止めないと多分だけど本気でやり合うだろう。
「クロナ、やめなさい」
クロナは止めるなと言わんばかりにこっちを睨みつけてくる。
「睨んでも駄目、喧嘩はしない。 ミラさんもクロナと喧嘩しないでください」
「喧嘩? こんな子供相手に喧嘩なんかしないさ。 大人をなめ腐っているクソガキに大人の厳しさを教えてやろうっていう師匠としての優しささ」
いい師匠だろう?と言わんばかりに胸を張っていた。
その姿はどっちがクソガキかわからない程、やることが大人げない。
「師匠且つ大人なら、いつものように見本になる振舞や言動をしてください」
いつもは子供に優しく、皆から慕われる良い先生なのにどうしてかクロナとはこうなってしまうのだ。
「何? 私に説教する気? いつもクレインの後ろに隠れて泣き喚いていた貴方が? 偉くなったもんねぇ~」
「兄やっぱ無理、こいつシバく!!」
「やめなさいって」
クロナの首根っこを掴んで彼女に言うと、不満そうな顔でこっちを見る。
「ミラ、それ以上やるなら私が相手になるけど?」
面白そうにクーヤさんが手を上げて言うと、ミラさんは視線を逸らす。
互いに万全の状態なら間違いなくクーヤさんに軍配が上がるからだ。
剣士に魔法士は基本的に1対1勝つことはできない。
理由は簡単で魔法を発動するよりも前に剣士が間合いに入ることができるからである。
いくらミラさんが詠唱が早くとも、彼女の詠唱よりクーヤさんの方が先に剣が届くのは間違いないからだ。
「悪かったよ、これでいいだろ!?」
「よくできました~パチパチパチ~」
謝ったミラさんにクーヤさんが拍手を送る。
僕はクロナを見る。
「クロナも、これでいいだろ?」
「ん、兄がそう言うなら構わない」
話せばちゃんとわかってくれるクロナは優しいし、いい子だな。
「そうだレイル、リィンから伝言、目が覚めたらいつでも適性魔法の検査にユナって子を連れてきてもいいってさ」
「わかりました」
「ミリネ、そろそろ離れてくれないか?」
「師匠成分摂取ぅ~」
離れようとしないミリネと立ち上がると、音も予備動作もなく彼女から離れる。
瞬間、ミリネが体勢を崩し地面にぶつかった。
「重心は崩すなといつも言ってるだろう?」
涙目で非難の視線を浴びせるミリネに向かってそう言うと、次の瞬間には僕の方へ顔を近づけていた。
相変わらず速いな。
「びっくりするじゃないですか」
「君、また強くなった?」
「師匠達には劣りますが、強くはなってると思います」
「あはは、ミラよりかは強いんじゃない? 魔法以外ポンコツだし」
「ポン……」
あ、ショックを受けてる。
正直、何でもありの戦闘を考えたら勝てる可能性はあるが、それは適材適所だ。
「いえ、ミラさんは魔法に関しては足元にも及びません。 戦闘では一対一はそうそうありませんから」
戦闘では魔法使いは同じ魔法使いを相手取ることが多いので、そうなれば彼女の独壇場だ。
加えて彼女と組むのはクーヤさんだ、負けることなんて正直考えられない。
例え僕らが束で戦闘になったとしても、確実に100%負け気しかしない。
三人でクーヤさんをその場に抑え込むので手一杯だ。
まぁ、抑え込める気はしないけど。
「まぁ、乱戦に関しちゃ、あいつは頼りになるよね」
「うわ、気持ち悪いわね。 貴方が私をほめるなんて」
「いやいや、実際感謝してるよ? ただ、感謝より憎たらしいが勝ってるだけだよ。 戦闘面ではちゃんと感謝してるよ」
「憎たらしいが余計よ!!」
「あはは」
頬を膨らませ子供っぽく怒るルラさんにクーヤさんは笑う。
「ご飯を作ろう、ミラ手伝ってくれるね?」
「仕方ないわね」
そう言って二人は仲よく厨房へ向かう。
なんだかんだ言っても仲がいいのはいい事だ。
「私達もいこっか」
続いてミリネ達も厨房に入っていく。
厨房は四人に任せて、僕はゆっくりすることにした。
「レイル~、そろそろ出来るから食器を並べて~」
「りょうか~い」
しばらくして、料理ができたのかミリネに言われたので食器を取り出し、厨房へ向かい大中小の二枚ずつ重ねて並べる。
「これ、置いときます」
同じようにクーヤさん達の厨房にも食器をもっていき並べる。
「ありがとう」
「クーヤさん、他にいるものはありますか?」
「いや、これだけあれば大丈夫だよ。 ありがとう」
「何かあればいつでも呼んでくださいね」
今度は分け皿と、スプーンやフォーク・お箸などを並べに行くのだった
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