第6話 魔法の基礎とクロナの教え

「相変わらず兄、強い……」

「だねぇ~、かっこよかった!!」


 クロナとミリネがそう褒め、ユナは2人の言葉にキラキラ眼を輝かせながら頷いていたので少し照れ臭くなる。


「僕なんて師匠に比べればまだまだだよ」

「ん~!! なんか戦いたくなってきた!! ねぇクロナ、私達もどう!?」

「面白そう」

 

 僕らの戦いに触発されたのか、ここに来た本来の目的を忘れて戦う気満々だ。

 

「ユナに教えるんじゃなかったのか?」

「そうだった」「あ、あはは……」


 二人は思い出したかのようにそう言うと、ユナの腕を掴む。

 

「ユナ、行く」

「うん!!」

「兄も来て」

「僕はちょっと休憩してから行くよ」

「わかった」


 そう言ってユナとクロナ、ミリネは向こうの方で彼女に魔法を教えていた。

 なんというか、新鮮だな。

 クロナがミリネ以外の誰かと仲良くしているのが新鮮だ。

 そうして遠くでユナの指導を見ていたのだが……うん、見てられん。

 

「こうやる、えい」


 そう言ってクロナは詠唱を省き、水魔法を放つ。

 魔法は詠唱が重要だ。

 魔力を込める→詠唱をしながら魔法陣をくみ上げる→魔法が組みあがる→魔法を放つ。

 大まかな工程はこの感じだ。

 魔法陣をくみ上げる際、言葉で詠唱し魔法を放つのを想像して魔法を放つのが定石だ。

 やはりクロナに教えは無理だった。

 元々効率的なクロナは天才という事もあり、工程をすっ飛ばして魔法を繰り出せるのだ。

 

「え、え~い!!」

 

 見よう見まねでやるが、彼女の手からは何もでない。 

 それはそうだ、発動したことない事に加え詠唱を省いているのだ。

 出るわけがない。


「遊んでる?」

「遊んでない!!」


 右手を翳し、「むむむ」っと手に力を籠める。

 その手は魔力が全く籠っていない。

 あの感じは恐らくだが、魔力回路が開いていない。

 魔力回路が開いてなければ、魔法を発動することは到底不可能だ。


「ユナ、才能ないかも?」

「んなわけないだろ」


 酷い言いようのクロナに僕はいう。

 才能云々の前に基礎的な事が出来てないのだ。

 

「魔力回路、確認したのか?」

「……必要?」

「必要に決まってんだろ、全く……ミリネは何も言わなかったのか?」

「うん? クロナが何も言わないから大丈夫かなって思ってた!!」


 だろうね、そんな気がしてた。

 自分にまかされたこと以外ミリネは基本的に何も口出ししないので、言わなかったのだ。

 

「はぁ、今日の魔法の修行は終了だ、クロナ魔力回路の開拓、ちゃんとしろよ」

「魔力開拓?」

「魔力開拓ってのは、魔法扱う魔力の回路を通す事だよ」


 魔力開拓はこの世界で魔法を扱うのなら避けて通れない道だ。

 魔力の回路を自分で感じ、それの扱い方を覚える訓練だ。

 回路を無理やりこじ開ける痛みは大人になるにつれ想像を絶するものと言われている。

 僕やミリネはこの天才妹と幼い頃から一緒にいたので、魔力回路はいつの間にか扱えるようになっていたので何ともないが、ユナの場合はそうとは限らない。

 年齢的に大体は遅くとも15歳までには魔力回路を開拓するといわれていて、それ以上の歳になると危険度が格段に上がると聞いたことがある。

 ユナは僕と同い年、中々にギリギリだ。

 

「魔力開拓はミリネかユナどちらかに開拓してもらってくれ」

「それ、レイルじゃ駄目なの?」

「……は?」

「私、してもらうならレイルがいい」

 

 僕の方を見て悪戯っぽくそういうと「駄目?」っと問いかけるように首を傾げる。

 流石にこれに関しては僕では駄目だ。

 出来ない事はないが、彼女の事を考えるとできない。


「二人にしてもらいなさい、その方がいい」

「なんで?」

「開拓は同性の方がやりやすいんだ」


 嘘である。

 正直、異性でも開拓は出来ない事はない。

 だが、こうでも言わないと彼女は納得しないだろう。

 開拓は色んな身体の部分を触るので、色々と不味いだろう。

 加えて僕がそんなことをしたと村に知れてみろ、村の男達に命を狙われかねない。

 それだけは絶対に避けたいというのが本音だ。


「そうなの?」


(わかってるよな?)


 二人に問いかけるユナの横でミリネに圧をかける。


「別に同性じゃな……」

「そうそう、同性の方がやりやすいのよ」

 

 圧にミリネが何かを悟ったのか言葉を合わせてくれる。

 クロナの方は口を抑えられ、暴れている。

 あれ、息止まるぞ。

 口と鼻を抑えているので、あの状況だと息ができない。


「ミリネ、放して放して」

「? あ、ごめん」

 

 クロナはぐったりとして意識を失っていた。

 全く、この子は加減が出来んのかと思うが今に始まった事ではないので、別に驚かない。

 

「大丈夫!! 息はちゃんとある!!」


 全く大丈夫じゃないんだよなぁ~。

 彼女の殺しの技術は良いものだが、加減を知らないのが玉に瑕だ。

 

「はぁ、今日はここまでにしよう。 いいな、ユナ」

「あ、うん」


 そうしてクロナを抱きかかえ、三人の住んでいる家に運び彼女のベッドに寝かせると、すやすやと可愛らしい寝息を立てて先程とは違い気持ちよさそうに眠っている。


「ごはん、食べてくでしょ?」

「そうだな、ご馳走になろうかな。 何か必要なものはあるか?」

「う~ん、鶏肉が欲しいかな」

「わかった、じゃあ行ってくるよ」


(さて、どこ探しに行こうかな)


 どうせなら美味しい水鳥みずどりがいいと思い、水辺を探していくと水鳥が丁度狩りをしていた。

 

「かの者を貫く弓よ、顕現しろ」


 そういうと、水の弓が現れ引くと魔力に気づいた水鳥がこちらに襲い掛かってくる。


「水と風よ、かの者を打ち抜く力を与えたまえ」


 そういうと水の矢が現れ、続いて風が矢に纏わりつく。

 

蒼風弓矢そうふうきゅうし


 そう言って弦を放すと弓矢は水鳥を貫き、標的は倒れ込む。

(結構大きいな)

 遠くからは分からなかったが、四人食べるには十分な大きさだ。

(これくらいあれば十分だろうな)

 後は水魔法で血を抜いて何もなければ持って帰ろう。

 病気や何かないかを確認して特に問題もなさそうだ。

 念のために解析魔法を掛け、二重に確認をして安全を確認すると持って帰る。


「おかえりなさい、結構おっきいの狩れたねぇ」


 じゅるりと涎を垂らしながらミリネは受け取ると、調理場に戻る。


「美味しくなるんだよぉ~」


 そう言っての脚を縛り、剣に手を掛け「ふん!!」と声を上げると水鳥は綺麗に捌かれる。

 相変わらずの綺麗な剣技だ。

 綺麗な線を描くように流れる剣技は洗練された剣士と素人から見てもわかるほど綺麗な舞だ。

 ユナの方を見ると、ミリネの剣技に頬を朱色に染めながら彼女の剣技に見惚れている。


「うん、美味しそぉ~、後は毛皮を剥いで……ほい、クロナ」

「ん、ありがと。 いい素材流石ミリネ」


 クロナは嬉しそうに彼女から受け取った毛皮を見つめる。

 

「兄、もしかして私が水鳥の毛皮が欲しいってわかってた?」

「そんなわけあるか、偶々だよ」


 いくら兄妹とはいえ、そこまでわかってたまるか。

 

「ふふん、そういう事にしとく」


 なんか、言いように取られてるなぁ~。

 まぁ、妹が嬉しそうなのでいいか。


「ぶっらこんぶっらこん、に~いはぶらこ~ん」


 ルンルンでクロナはご機嫌そうに歌い出した。

 その後、僕らは食事を済ませて少しおしゃべりをして普通に眠ったのだった。

 

 

 

 

 

 

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