第5話 ユナへの問いと決意
「今日も美味しかったぁ~」
「ん、ご飯とっても美味だった」
ミリネとクロナの二人は満足そうにしている。
その辺の王都の食堂よりは栄養もあり、新鮮味があって美味しいので二人の言うことはわかるのだ。
しかし、ユナの方を見ると、どこか話に入っていけないようなそんな感じがした。
もしかして、そんなに美味しくなかったのだろうか?
彼女の場合、貴族なので美味しい料理をたくさん食べてきているのでもしかしたら口に合わなかったのかもしれない。
「今日は2人の家に泊まるんだっけか?」
「うん、今日は泊る所を探すらしいからうちに泊まることにしてもらったぁ~」
「ん、楽しみ」
ミリネとクロナの二人がいるのなら安心だろう。
仲のいい子達と暮らすとなれば、心細さが薄れるので彼女にとっては最善と言えるのだろう。
「じゃあ二人とも、ユナの事頼んだよ」
「任せて」
「ん、私達に任せる」
そう言って二人は中に入っていく。
「レイルさん」
「レイルでいいよ、どうした?」
「その、お礼を言っておこうって思って……」
「別に気にしなくていいよ」
正直、彼女を救おうと思ったのは僕の気まぐれだ。
別に大層な意味などない。
助けを求められ、助けられるから助ける。
ただそれだけだ。
「ユナ、一つ聞いてもいいか?」
「……今日の夜の奉仕の件ですか?」
(この子は何を言ってるのだろうか?)
彼女は人目が気になるのだろう、僕の耳元に囁くそうにそう言った。
流石の彼女でも頬を染め、恥ずかしそうにしていた。
(恥ずかしいなら言わなきゃいいのに)
「んなわけあるか」
「お礼と言ったら私にできるのはこのくらいですし」
「誰もそんなこと求めてないし、求める気もない」
「そうですか」
「あと、この村であんまそういう事いうなよ。 男共が変な気を起こすから」
正直、こいつにこんなこと言われたら村の男共は狂喜乱舞だ。
「わかってますよ、それで私に聞きたい事って何ですか?」
そうだった。
この子と二人で話していると脱線の連続で中々話が進まない。
「まだ来て間もない君に問うけど、ここに来てよかったか?」
正直、後悔しているのではないかと思ってしまう。
ここに来るより貴族として優雅な生活の方がいいのではないかと僕は思う。
「う~ん、どうだろう? でもま、あそこにいるより全然いいと思うよ」
「そっか」
彼女がいいと思うのならそれでいいと思う。
これ以上僕がどうこう言うべきことじゃない。
「何? 心配してくれたの?」
「まぁな」
「そっか、心配してくれてありがとね」
そう言うと彼女は嬉しそうにニカっと笑うと、ミリネの元へ向かった。
何はともあれ、今日も一日何事もなく乗り切れた。
生きている事に感謝!!
師匠の言葉だ。
こう思って生きていれば、絶対に楽しいことが訪れるらしい。
起こったことないけど。
そんなこんなで僕は家に帰り、眠りにつくのだった。
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誰か来たな。
恐らく三人の内の誰かが朝食の時間だと起こしに来たのだろう。
「兄、朝食の時間」
ノックすることなく、ドアを勢いよく開きクロナが入ってきてそう言った。
「おはようクロナ、ノックはしような」
「……(コンコンっ)」
「よろしい、出来たら入る前に頼むな」
「ん」
「すぐ行くから」
「わかった」
そう言って準備をして三人のいる家へ向かう。
「おはよう」
「おはよ」「おはよぅ~」
ミリネは元気一杯にユナは眠そうに欠伸をしながら返してきた。
「昨日はよく眠れたか?」
「うん、まぁねぇ~」
そんなこんなで朝食を済ませ、僕は準備をする。
「それじゃ、行ってくるよ」
「兄、私も行くからちょっと待ってほしい」
準備を済ませ、クロナに声をかけると彼女もどうやらついてくるようだ。
「んっ、準備できた」
そう言って彼女が準備を終えたところで、僕とクロナが出ようとすると急いだようなバタバタした足音が二つ聞こえる。
「待って待って、私も行く!!」
急いで降りてくるとユナはそういい、ついてこようとする。
「別に構わないけど、あまり面白いもんじゃないぞ?」
実践に近い形式だ。
貴族が見ている武闘会とはわけが違う。
武闘会は演出交じりの戦いだが、僕らは演出など一切ない。
己が生き残るために他者を欺く戦いで、命を奪う以外は問答無用の形式で彼女にとっては退屈だろう。
「あぁ、それなんだけど、ミリネとクロナに稽古つけて貰う事になったから」
「んっ、ユナはやる気だから教えることにした」
ユナの言葉にクロナを見ると、彼女は頷きそういった。
「本気か?」
「うん、本気だよ」
「ならいいんだけど」
やる気なら別に構わない。
僕らの村はやりたい奴はやればいいし、やりたくない奴はやらせない主義なので別に構わないだろう。
「無茶はするなよ」
「ん、わかってる」
(本当かなぁ~)
クロナは魔法の天才なので少し心配だった。
天才は出来ない人の気持ちがわからないからだ。
元からできて出来なくなることがあまり無い為か、出来ない人の気持ちがわからない傾向にあるからだ。
「まかせて」
親指を立てて任せろとクロナはやる気満々に鼻息を慣らした。
基本的に彼女はこういう自分の興味や利益にならない事は基本することはないので、ここまでやる気になる彼女も珍しいものだ。
「来たな」
訓練場に着くと、ゴルァが先に酒を飲みながら待っていた。
「相変わらず、それを飲まないと駄目なのか?」
「あぁ、これくらいがちょうどいい」
「そうか」
そう言って少し赤い顔で彼は構えると、僕も前に行き彼の前に立つ。
「勝負の方法はいつものでいいか?」
「あぁ、その方が俺もやりやすい」
「そうか」
彼との勝負はいつも大体素手の勝負だ。
ゴルァの戦闘スタイルは剣主体の僕とは違い、拳系等の戦い方だ。
こちらが構えた瞬間、ゴルァは割れんばかりに地面を踏み込み一気に距離を詰めてくる。
彼の強靭な筋力に身体強化を加えた彼の踏み込みは地面がめり込むほどだ。
そのまま距離を潰すと、彼は力強い踏み込みとは違い素早い攻撃を繰り出してくる。
僕はその攻撃を躱していく。
「けっ、相変わらず余裕で避けるか」
「まぁ、相性もあるしね」
彼の攻撃の主体は火流という流派に対して僕は清流を主体としているので相性としては僕の方が少し上だ。
「伸びきってるね」
僕は彼のほんの少し伸びきった腕を引っ張る。
しかし、力は圧倒的に彼の方が上なので一気に彼は押し返そうとする。
それを僕は利用し、逆に腕を押し返すと彼の体勢が崩れる。
そのまま僕はもう一度引くと、彼は完全に体勢を崩す。
そのままの体勢から拳を放つと、彼は後ろへ吹き飛ぶとそのまま木へ叩きつけられる。
「いててて……」
「まだやるか?」
痛そうに起き上がる彼を見ながら言う。
普通の奴なら意識がなくなるはずだが、彼は丈夫過ぎるのでこの程度では軽く殴られた感じだろう。
「いやぁ~参った、やっぱ強えなぁ~」
「そりゃ、伊達に村の代表やってないからね」
「まぁ、それもそうか」
そう言って僕らは互いに笑いあうのだった。
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