第4話 期待と落胆
何を期待しているのかまるでわからない。
目の前の彼女はキラキラした瞳で何かを言ってほしそうにこちらを見ていた。
「兄」
クロナが何かを言いたそうなので膝を屈める。
「きっと褒めてほしいんだと思う」
(あ~、そういう事か)
二人ともほめられていて自分が褒められないから誉めてほしいとそういうわけの様だ。
とはいえ、どう褒めるかな。
彼女をほめようにもあったのが昨日だ。
容姿をほめるのも二人に反感を買いそうなので、どうしたものか。
彼女との出会いからこれまでを思い返してみる。
(図太い精神力、これは違うな……そうだ)
「何事も前向きに向き合う所がいい所だ」
うん、これなら角が立つ事が無い。
彼女を一言で表すなら前向き、今浮かんだ中で褒めるとしたらこれだった。
「そ、そう? えへへ」
そう言って彼女は嬉しそうにほほ笑んだ。
何とか地雷を踏まずに済んだようだ。
「ねぇユナ一緒に行こ」
クロナは僕から手を離し、彼女の元へ歩いていきそう言った。
「うん、いこっか」
「ん」
そう言って二人は手を繋ぐ。
クロナがこんなに早く人と仲良くなるのは初めてだった。
基本的に彼女は人に興味がないので、仲良くなるまでに時間が掛かる。
ミリネとも今ではこんなに何でも言いあえる仲だが、そこにたどり着くまでに結構な時間が掛かっているのだ。
「兄、どうしたの? 魔獣が石をぶつけられたような顔して」
「どんな状況だよ」
例えが抽象的でわかりにくいし、そもそも魔獣はそんなことされたら怒るに決まっている。
僕は怒っているのではなく、驚いているのだ。
「行かないと駄目か?」
「駄目」「行こうよ」「来てくれると嬉しい」
こういわれてはいかざる負えないだろう。
っというか行かなかったら後からどれだけぼろくそ言われるかわかったもんじゃない。
「それじゃ、いこぉ~」
「お~!!」
「お、お~」
クロナの言葉にユナとミリネが拳をあげてそう言うと、二人は楽しそうに話しながら歩き出した。
今思ったのだが、彼女は人の懐に入るのが上手い。
なんというか、雰囲気が物静かで親しみやすい雰囲気だ。
クロナがミリネ以外に楽しそうな声色で話しているのが、その証拠だ。
表情はまぁ、相変わらずわかりにくいが。
そうして僕らはユナと村の案内をする。
まぁ、案内するところと言えばここには王都程あそび場に特化している場所はない。
子供たちが遊んでいる場所は僕が開拓した自作のあそび場くらいだ。
「意外と充実してるのね」
「ん、全部兄の手作り」
「へぇ~、そうなんだ」
「兄、少し遊んできていい?」
(遊びたいんだなぁ~)
この感じは遊びたそうな感じだ。
まぁ、ある程度彼女に案内したし、残りは食事の時に皆に紹介したらいい。
「行ってこい」
「ん、ユナ、行こ?」
「うん!!」
そう言って二人はあそび場に向かうのを見送り、ゆっくりする。
「いやぁ~!!」
師匠に教えてもらったブランコ?という物をクロナが押し、勢いよく空に投げ出され宙を舞う。
僕は一気に踏み込み、魔力を込め勢いよく蹴る。
彼女の元へ行き、回収し着地する。
「怪我はないか?」
「あ、うん」
「ならよかった」
ユナを降ろすと強張った表情でクロナが見てくる。
怒られると思っているのだろう。
(まだ、あの感覚が抜けてないのかな)
クロナは元々、悪徳奴隷商の元で悲痛な経験をしている。
幼いながらに酷い暴力等を受けてきたので上手く感情を表に出すのが苦手になってしまっている原因にもなっている。
(震えている)
僕が彼女に手を伸ばすとやはり彼女は怯えたように目を閉じたので、やはりまだあの頃の事が抜けないのだろう。
頭を撫でると、彼女はゆっくり目をあけこちらを見る。
「ごめんクロナ、僕が悪いんだ。 彼女が素人だと君に伝えるのを忘れてた。 ごめんね」
僕がそう言うと、彼女はフルフルと首を横に振る。
「僕こそ、ごめん。 また、力加減をミスっちゃった」
「まぁ仕方ないさ、次気をつければいい」
「ん、わかった。 ユナ、怖い思いをさせてごめんね」
クロナはユナの方へ行き、彼女に頭を下げる。
「全然、むしろ空を飛んだようで楽しかった!!」
ユナは楽しそうに笑った。
なんというか、楽観的すぎる。
死にかけたというのにその言葉が出てくるなんて聖人か何かかな?
そう思ったが、手が震えている。
彼女に心配を掛けないように強がっている。
表情からは読み取れないが、明らかにどこか強張りがあるのだ。
「ユナ、ほんとにごめんね」
「もう、大丈夫だってばぁ~」
クロナにそれは効かない。
彼女は人の表情や仕草の機微に鋭いので隠そうとしても無駄なのだ。
「ん、ならいい」
クロナもユナにこういうのは駄目だと、察したのだろう。
これ以上は踏み入れてはいけないと、彼女自身も感じているのだ。
そうして再び二人は遊んでいる。
「そろそろ行くぞ~」
ある程度、時間が経つとそろそろ日が沈みそうだったので二人にそう言うと仲良く手を繋ぎ、仲がよさそうにこっちに歩いてきた。
そうして僕らは挨拶も兼ねて村長の元へ向かう。
村長の元へ向かうと、何人かが料理の準備をしていてこちらに気づくと質問攻めにあう。
村の若い男子がユナの存在に狂喜乱舞していた。
ユナに近づこうとするが、ミリネが間に立ち睨みつける。
男共はビビり、後ずさりする。
まぁ、気持ちはわかる。
ユナは比較的整った顔立ちなので、人気が出るのは分かるのでミリネを同行させたのは正解だった。
男共もミリネだと分が悪いと感じたのか、それぞれ食事の準備に戻る。
「守ってくれてありがとう、ミリネ」
「どういたしまして」
そう言って三人は中に入っていくので僕も続いていく。
そうして中に入り、村長に挨拶を済ませると皆で宴会が始まる。
「おうレイル、元気そうで何よりだな」
そう言って豪快に笑う屈強な男、同じ暗殺者で幹部のゴルアが絡んでくる。
「お前も元気そうだな」
「まぁな」
そう言って彼は酒を飲み続ける。
「それにしても珍しいな、ここにいるなんて」
彼は基本、紛争地帯で潜入調査を行ったりしている。
時に傭兵として、時に暗殺者として活躍している僕より経験の多い男だ。
「丁度紛争地帯の鎮圧が終わってな、村に帰ったら宴をするってんで残ったんだ。 久しぶりにお前とも話したかったしな」
基本敵に彼の紛争地帯は長く続くことが多い。
加えて彼は直ぐに紛争や盗賊狩りに出向くことが多いので僕でさえも一年に一度会えるかどうかの遭遇率だ。
「僕も話したかったです。 中々会えないしね」
「そう言ってくれて嬉しいぜ」
そう言ってゴルアと話す。
ユナの事が気になるが、ミリネやクロナがいるので心配ないだろう。
先程の男共の反応からして諦める奴ではないだろう。
とはいえ、ミリネがいるのでそうそう変な気は起こさないだろう。
ミリネは僕に次ぐ実力を持っている。
同じ師匠の意志を継ぎ、実力も受け継いだ僕の妹弟子なので実力は折り紙付きだ。
剣技に関しては師匠曰く彼でも敵わないと言っていたのを覚えている。
ユナがいる方を見ると、三人とも仲よさそうに話していた。
そうしていい時間となり、それぞれ片づけをしていた。
「さて、明日は暇か?」
「ん? まぁ依頼はないが」
「そうか、だったら明日久々に訓練しねぇか?」
ゴルアの提案は久しぶりに模擬戦をやらないかという事だ。
「構わないよ」
久々に彼と模擬戦をできるのは願ったりかなったりだ。
「なら決まりだな、明日の昼訓練所で待ってるぜ」
そう言って彼はフラフラしながら自分の家に帰るのだった。
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