第35話

 お昼ご飯を食べ終えた後、4人は東屋の中で一休みしていた。


「ねぇ!」


 すると、半分寝かけていた杏奈が何かを思い出したのかいきなり大声を出す。


「どうした? 杏奈?」

「久しぶりに、植物園に行きたい!」


 目を輝かせながら、杏奈は提案する。


 だが、亮は行きたいのはやまやまだがあまり乗り気ではなかった。


(植物園の中めちゃくちゃ暑いんだよなぁ......)


 この公園の植物園はガラス張りとなっており、熱帯を再現しているのかわからないが、かなり暑いのである。


 汗をかくのがあまり好きではない亮は正直行きたくないとまで思っていた。


「えー、私はふれあい広場に行きたい!」


 そこに待ったをかけるように麻奈美がぶれあい広場を提案する。


「私は植物園がいいの!」

「やだ! 暑いじゃん! ふれあい広場に行きたい!」


 2人はまるで子供のように歪み合う。


 そういえばこの2人子供の頃もこうやって歪み合っていたなような。


「2人とも、喧嘩はおやめください。もう小さくないんですから」

「「だってー」」


 恵里香に喧嘩を仲裁された2人は頬を膨らませながら講義する。


「なら、二手に分かれましょう。それなら文句はないでしょう?」

「まぁそれなら」

「私は杏奈様について行くので、亮様は麻奈美様について行ってもらえますか?」

「わかった」


 亮にそう指示して、恵里香は杏奈と共に植物園のある方角へと向かって行った。


(あー、ふれあい広場の方で良かった.....)


 汗をかかずに澄むと亮はほっと一息ついていると、急に麻奈美に腕を引かれる。


「亮君! 早く行こ!?」

「ちょ、麻奈美ちゃん引っ張られないでー!」


 かなり強い力で、亮は連れて行かれてしまうのだった。

 




「2人でこうやって歩くのは久しぶりだね」

「うん、そうだね」


 仲睦まじく会話しながら、2人はふれあい広場へと歩く。


 すると、突如として麻奈美が亮の手を握ろうとしてくる。


「ひゃっ! な、何!?」


 びっくりした亮は、珍しく、可愛らしい声を出してしまった。


「あはは! 何ー?今の声?」

「いきなり手を繋いできたからびっくりして.....」


 思いもよらない声を出してしまい亮も次第に恥ずかしくなってしまう。


「びっくりしたら、亮君そんな声出すんだね」

「う、うるさい......」

「ねえねえ、杏奈や恵里香にも話してもいい?」

「だ、だめだよ!」


 ニヤニヤと笑いながら腕をツンツンしながら懇願するが、そんな事を言われてしまえば、一生いじられてしまうので、必死に拒否する。


「じゃあ私と手を繋いでね?」

「わ、わかったよ.....」


 しょうがなく亮は麻奈美の手を繋ぐ事になってしまった。


 しばらくして、ふれあい広場に到着すると、麻奈美は目をキラキラとさせる。


「すごく久しぶり〜!!」


 入口に立った麻奈美は、今までに出したこともない声を出して興奮していた。


「そんなに興奮する事なの?」

「当たり前じゃん!! だって可愛くて小さな動物がたくさん触れるんだよ!」

「そ、そうだね」


 麻奈美の高いテンションに圧倒されながら、ふれあい広場の中へと入場する。


 まず最初に向かったのは、モルモットがいるコーナーだ。


 丁度、大移動をしている時間だったらしく、大量のモルモットが透明なトンネルの中を移動していた。


「きゃわあ!!!」


 また麻奈美は可愛い声を出す。


(その反応をしている麻奈美ちゃんの方が可愛いなぁ)


 大移動してるモルモットと、それに癒される麻奈美がいて、亮にとっては幸せな空間であった。


 その次に向かったのは、動物と触れ合える、メイン広場だ。


「ウサギさんモフモフ〜!」

「本当に触ってて気持ちいいね.....」


 やはり人に慣れているだけあって、暴れることなく、おとなしく亮と麻奈美の膝に座っていた。

 

「って! 亮君にめっちゃウサギ集まってる!?」

「わっ! 本当だ!?」


 気がつけば、亮の周りには大量のウサギが集まっているのに、気が付く。


「お姉さん、人気者ですね!」

「え、いや俺は男です.....」


 笑顔で話しかけてきた女性に亮はそう説明すると、女性は驚いた表情をしていた。


 無理もない、服装以外はまんま女の子だからだ。


「あら、ごめんなさい……。でも本当にお綺麗な顔をしていますね……」

「いえ、そんな……いたたた……」


 女性から褒められて、ニヤニヤとしていると、横にいた麻奈美から手のひらをつねられてしまう。


 振り向くとかなり不機嫌な表情をしていた。


「な、何? 急に……」

「今は私以外の事見ないで」

「わ、わかりました」


 半ば困惑しながらも、圧に圧倒された亮は了承する。


 そんな話をしていると、麻奈美の方へ一匹の少し大きめのウサギが近づいてきていた。


「わぁ……大きくてかわいい……」


 そう言って麻奈美は抱っこしようとすると、そのウサギはあろうことか、麻奈美の顔めがけて飛びついて来て、麻奈美は椅子から転げ落ちてしまう。


「だ、大丈夫……!?」


 飛びついてきたウサギを放そうとすると、スカートなのに、またあの時のように足を広げており、今度はピンク色の可愛いものが見えていた。


(また見えてる……。見ないようしないと……)


 なるべく見ないように、ウサギを放すと、そこに慌ててスタッフがやってくる。


「すいません、お怪我はなかったですか?」

「はい、大丈夫です……」

「この子、よく人に飛びつくんです……。本当にすいませんでした……」


 申し訳なさそうに、頭を下げ、ウサギを回収して行った後、麻奈美が起き上がってくる。


「大丈夫? 麻奈美ちゃん……」


 心配そうに声をかけると、麻奈美は顔を赤くして、こちらを睨む。


「もしかしてまた見た?」

「み、見てない……」


 亮が顔を赤くし、頭を何度も横に振ると、麻奈美は先ほどよりも更に顔を赤くする。


「えっち……」

「ご、ごめんって!」


 そう一言呟いて、椅子にまた座り、ウサギと戯れる事を再開するのだった。






 堪能しきった2人はふれあい広場を後にする。


 外に出ると、もう日が沈みかけていた。


「助けてくれてありがとうね」

「うん、麻奈美ちゃんが無事で良かったよ」


 そんな話をしていると、来るときと同じように麻奈美が亮の手を握る。


「小さい頃も、ああやって私の事をよく助けてくれたよね?」

「そうだっけ?」

「もう!! 忘れたの!?」


 頬を振らませて、信じられないと言う表情をしていた。


「だ、だって……もう何年も前の話だし……」

「……私は覚えてたのに……」


 今にも泣きそうになる麻奈美へ亮は一言「ごめんなさい」と謝る。


「いいよ別に。許してあげるー」


 謝罪して、上機嫌になった麻奈美としばらく無言で歩いていると、急に麻奈美は立ち止まった。


「どうしたの? 麻奈美ちゃん?」

「もしね、昔から亮君の事を好きな女の子がいるって言ったらどうする?」

「え……」


 唐突に言われた衝撃の事実に亮は驚愕する。


(あ、あれ?俺、昔絡んでた女の子ほとんどいないぞ?誰だ?恵梨香か?いやあのアイツが俺の事を好きなわけが……、じゃあ麻奈美ちゃん?うーんだったらこんなこと言わないよなぁ……)


 頭の中で考えを巡らせていると、目の前に杏奈と恵梨香の二人が見えたので、亮は2人の方へと走った。


「おーい! お兄ちゃん!!」

「杏奈! どうだった? 植物園は?」

「すごく良かったよー。そっちはどうだった?」

「うん楽しかったよ」


 そう2人で話していると、不貞腐れた顔をした麻奈美がこちらにやって来たので亮は「大丈夫?」と聞くと元の表情に戻る。


「ううん、なんでもないよ」

「そっか、じゃあ帰ろっか」


 4人はそれぞれあったことを楽しく話しながら、帰路に就く。






 病院へ杏奈を戻して、麻奈美と駅で別れた後、亮と恵梨香は電車の中にいた。


 亮の中には未だに麻奈美に言われた事が気になっていた、未だによくわからず仕舞いだ。


「ねぇ、恵梨香?」

「なんですか?」

「麻奈美ちゃんから、昔から俺の事を好きな女の子がいるって言われたんだけど、誰の事だと思う?」


 そう恵梨香に聞いた瞬間、ゴミを見るような表情となって、そっぽを向く。


「そんな事だから、女の子にモテないダメ男なんですよ」

「そこまで言わなくても……」


 結局、恵梨香に聞いてもわからなかったかと肩を落とす。


 よくわからなかったので、亮は気にしないことにするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る