第25話
「すごい……こんなに頂いてよろしいのですか?」
サロンルームの中には、多くの高級スイーツや食材の入った箱がたくさん置かれる。
先ほど電話したのは、どうやらこの高級スイーツや食材をサロンへ持ってこさせるためだったらしい。
「杏奈様! 見てください、このバームクーヘンなかなか手に入らない、有名なお店のやつですよ!!」
「杏奈! こっちのケーキもすごく高いのだよ!」
「す、すごいね……」
麻奈美や唯も、高級スイーツを机に並べながら興奮気味だった。
「良ければ、ご希望の高級店のスイーツとかあればお持ちしますよ」
「いいんですか!?」
「ええ、お気軽に申してください!」
それにしても智代の立ち姿、歩き方や所作、育ちが良いのかとても綺麗である。
そんな智代の姿を見ていると、恵梨香が亮の肩を叩く。
「ん?どうかしたの?」
「杏奈様、この食材を冷蔵庫に入れるので手伝ってください」
「うん、わかった」
食材の入った段ボールをキッチンに運び、恵梨香の指示通り冷蔵庫へと放り込む。
「あの、杏奈様。私から提案があるのですが……」
「何? 提案って……?」
冷蔵庫に食材を入れながら恵梨香が亮に提案をする。
「智代様を、サロンへ誘ってみればいかがですか?」
「え……マジで?」
恵梨香からの提案に、亮はあまり乗り気じゃない顔をすると、恵梨香が興奮気味に近づいてきた。
「智代様を、サロンに誘えば、食料をこのように提供してるくれるかもしれないんですよ!? もしそうなれば毎回買わずに済みます!!」
「まぁそうだけどさぁ……」
興奮気味な恵梨香に困惑しつつ、まだ亮は渋る。
「智代様を入れて何か問題でもあるんですか?」
「杏奈が、智代の猛アプローチを嫌がるかもしれないだろ……?」
杏奈は自分からアプローチをするのも、アプローチされるのも好きだが、流石にあの智代の猛アプローチは杏奈でも嫌がるのではないだろうか?
そう考えていると、恵梨香がバン!と机を叩く。
「その時は私が守ります!!」
「わ、わかったよ……」
珍しくテンションを高くして、太鼓判を押してきたので、亮は渋々了承する。
(恵梨香ってこういう食材とかへの執念がすごいんだな……)
食材を入れ終わった亮と恵梨香は、キッチンを出てルームへ戻ると3人はソファに座って談話していた。
「ね、ねぇ……。智代ちゃん?」
「はーい。なんですかー? 杏奈さんー!」
亮が智代に呼びかけると、満面の笑みでこちらを振り向く。
一瞬その笑顔に亮はドキッとしてしまうが、何とか振り払って話を続行する。
「もしよかったらなんだけど、私たちのサロンに入らない?」
「いいんですか!!??」
「うん、まだ人数が少ないから、智代ちゃんが入ってくれたら嬉しいなー」
「杏奈さんの頼みなら喜んで入りますー」
そう智代が宣言した瞬間、亮の後ろにいた3人は、メンバーが増えたと歓喜に酔いしれていた。
「という事で、栗花落さんが入ってくれたので、歓迎会を行っちゃおうー」
「いいですねー、麻奈美さんー」
「では、私は紅茶を用意しますね」
歓迎会の準備をしようとすると、突如として勢いよくドアが開き、桜が入ってくる。
「村上杏奈、今日こそ貴女に引導を渡してあげますわ!」
いつものように勝負を仕掛けに来た桜は、亮に近づこうとすると、目の前に智代が行く手を塞ぐ。
「な、なんですの……??」
「貴方こそ、杏奈さんに何か用です……?」
行く手を塞いだ智代は、まるでゴミを見るような目で桜を睨みつける。
「わ、私はただ杏奈さんにいつものように勝負を仕掛けに来ただけですわ……」
「じゃあ、貴方は杏奈さんの敵ってことでよろしいですね……?」
「て、敵なんて……そんな大袈裟な!!」
慌てて桜は、誤解を解こうとするも、智代の表情は変わらないままだ。
「じゃあ、貴方は、杏奈さんの何なんですか?」
「え、えっと……その……そう友達ですわ!」
「そうなんですか?」
振り返って亮に確認すると、亮は首を横に何度も振る。
「え……へ……な、なんでですの!?」
亮の反応を見て桜は慌てふためく。
「やっぱり、貴方は杏奈さんの敵なんですね……」
「ひ……ひぃ!!」
「出て行ってください!」
「ご、ごめんなさーい!!」
圧に屈した桜は、尻餅を付きながらルームから急いで出て行った。
「これでよろしかったですか? 杏奈さん!」
先ほど違って、満面の笑みで智代は振り向く。
「あ、ありがとう……」
自分を桜から、率先して守ってくれた智代を見ていて、これは智代を誘って良かったと思ってきていたのだった。
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