第24話

 翌日になって、不安だった亮は唯と一緒に智代のいるクラスへ向かう事になる。


「あの、本当についてきて良かったんですか?」

「唯ちゃんだけじゃ心配だったから……」

「ま、まぁ私も1人だけじゃ不安だったので……杏奈様が来てくれて心強いです!」


 そう言いながら唯は輝くような笑顔を見せた。


 やはりついて来て正解だったようだ。


 さて、少し歩いてようやく智代のいるクラスにたどり着く。


 どうやら亮と同じ学年のようである。


「いるかな?」


 クラスを覗くと、教室の片隅の席に1人スマホを触る智代の姿があった。


「いたいた。じゃあ私行ってきますので、ここで待っててください」

「よろしくね」


 唯はクラスの中へと入っていき、真っすぐに智代のいる方へと歩いていく。


「お、お久しぶりです栗花落さん」

「あら、城ケ崎さん。ごきげんよう」


(大丈夫かな……)


 こっそりとクラスの外から亮は、心配そうに唯を見盛り続ける。


「城ケ崎さんと会うのはこの間の社交パーティ依頼かしら?」

「は、はい! 多分そのくらいだと思います!」

「で、私にどのようなご用件でしょうか?」

「えっとその、実は貴方を何度も助けた女の子についてなんですけど……」


 本題の話を、始めた瞬間に智代は急に立ち上がって唯の肩を持つ。


「唯さん、もしかしてその方の事を知っているんですか!?」

「えぇ……まぁ……。一応お友達なので……」

「その方の事を教えてください! 今どこで何をしているのですか!!??」


 半ば興奮気味で、唯の体を揺らしながら、先ほどよりも1トーン上がった声で問う。


 周りにいた生徒も、なんだなんだと智代を見ている。

 

「え、えっと……その……ごめんなさい!!!」


 何度も、何度も圧を掛けるように「教えてください」と問う智代に耐えられなくなったのか、唯はクラスの外にいる亮の元へと駆け寄ってくる。

 

「ちょ、唯ちゃん!?」

「助けてください杏奈様~!」


 涙目になって抱き着いてきた唯を慰めながら、その場を去ろうとすると、智代が亮の存在に気が付く。


「あぁ、そこにいらしゃったのですね~!」

「やっば!」


 すさまじい速さで抱き着こうとしにきたので、亮は逃げようと唯の手を引くと、智代はピタっと立ち止まり悲壮感に満ちた表情をする。


「私の事……お嫌いになってしまったのですか……」

「あの……智代ちゃん?」


 目は生気を失っていて、何度も、何度も同じ言葉を繰り返していた。


 かなり智代の心を傷つけてしまったようだ。


「ごめんなさい! 悪気はなかったんだよ……。ちょっと怖かっただけで智代ちゃんの事は嫌いになってないから! だから元に戻って!!」

「そ、そうです! 杏奈様は良い人なんですよ!!」


 亮が全力で謝った後に続き、唯も同じく全力で一緒に謝ると、智代の目に生気が戻ってくる。


「本当ですか……? 良かったぁ……」


(はぁ……。危なかったぁ……。闇落ちなんてされたら困るからな)


 亮はほっと一息をついて、その隣で唯もほっと一息ついていた。




 

 

「えっと、私は村上杏奈。よろしくね?」

「栗花落智代と申します。どうぞよろしくお願いします」


 落ち着いたところで、亮と智代はお互い自己紹介をする。

 

「栗花落智代さんは、大手デパート系列を統括する栗花落グループの社長令嬢さんなんですよ」

「え!? そうだったんだ」

「はい、そうなんですー」


 まさかいつも行っているデパートを経営する社長令嬢だったとは……。


「昨日は、視察をしている途中だったんです。ですがあまりにも人が多く貧血を起こしてしまい……。貴女がいなければ私は誰にも発見されずあのまま倒れたままだったでしょう……。本当に感謝しています」


 深々と智代はお辞儀をする。


 流石に誰かに見つかるだろうと、突っ込みたいところではあるが、ここまでお礼をされると突っ込めるはずがなく「本当に無事で良かったよ」と苦笑いをしながら言うしかなかった。


「栗花落さん。杏奈様はサロンのリーダーを務めてらっしゃるんですよ?」

「ええ存じておりますよ。お噂はかねがね伺っております」


 やはり噂はかなり浸透しているようだ。


 もう亮が今サロンリーダーを務めている事を知らない生徒は、この学園にはいないのではないかと思うくらいだろう。


「杏奈さんすごいですね~。1年なのにサロンのリーダーを務めているなんて……」

「い、いえ……」


 尊敬のまなざしを向けながら手を握る智代に対して、亮はまた苦笑いをしながら答えた。


(ただ妹がいい学校生活を楽しめるために作っただけって言えないよなぁ……)


「あ、そうだ。今日と昨日の助けてくれたお礼、こういうのはどうですか?」


 そう言いながら、スマホを取り出すと、何処かに電話をかけ始める。


 何かを持って来てくださいと命令しているようだが……。


「な、なぁ……何されるんだ……?」

「さ、さぁ? 私にもさっぱり……」


 亮と唯は電話する智代の様子を不安げに見つめていたのだった。 

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