第17話

 シャワーで体を洗い流した亮は、3人がいる湯舟へ浸かる。


 湯舟からは、入浴剤を入れているのか、ほのかに薔薇の香りがしていた。

 

「とても気持ちいいですねー」

「そうだねぇ……」


 2人は気持ちよすぎて、今にも温泉と一体化しそうになっている。


「あ、ところで、晩御飯どうする?」

「確かに……どうしようか」


 晩御飯の事なんてこれぽっちも考えていなかったので、何も用意していない。


 いっそのこと近くのファミレスにで済まそうかと考える。


「私がお作り致しましょうか?」


 そう恵梨香が提案すると、唯は首を横に振った。


「いえ、みんなで作りましょう!」


 急に立ち上がった彩香は、強く3人に語り掛けるように言う。


「そうだね、一緒に料理を作れば、親睦も深まるしねー」

「わかりました。杏奈様もそれでよろしいですか?」

「うん、私も賛成だよ」

「じゃあ、決まりですね」


 決まったはいいが、2人は料理作れるんだろうか?と亮は少し不安になっていた。





 お風呂から上がり、着替えた亮達4人はサロンルームのキッチンにいた。


「とりあえず、材料を調達しようよ」

「いえ、その必要はありません」


 そう言って恵梨香が冷蔵庫を開けると、なんとそこには4人分の食材が入っていたのだ。


「い、いつの間に……」

「すごい……」


 中に入っているものを取り出すと、野菜やら高級和牛等、スーパーで売っているものだけでなく、高級食材などたくさんの材料が出てくる。


 これだけのものがあれば、豪華なフルコースを作れそうだ。


「ていうか、この高級食材どうやって買ったの?」

「……お気になさらず」


 少しニヤっとした表情で恵梨香は、キッチンの上に包丁や、まな板を用意する。


「ちょ、ちょっとぉ!?」

「とりあえず、まずは野菜のスープから作っていきましょう」

「じゃ、じゃあ私はお肉を焼くね!」

「わかりました。お願いしますね……」


 焦った亮を無視して、恵梨香は野菜を切り始めて、麻奈美は大きな肉を切り分けていく。


 その隣でも、彩香が包丁を使って別の野菜を切ろうとしていた。


「恵梨香さん、これはどうやって切ればいいですか?」

「これはですね……」


 後ろから唯の手を持って、一緒に教えながら切っていく。


 その姿はまるで母娘のようだった。


「何ですか……?」


 じっと見ていたことに気付いた恵梨香がこちらを睨む。


「い、いやなんでも……」

「……。杏奈様もぼさっとしてないで何かやってください」

「わ、わかった!」


 少し怒り口調で恵梨香は亮に命令すると、慌てて亮は鍋に水を入れ始めた。


(お母さんみたいだなんて、言えないよなぁ……)


 「ねぇ、杏奈……」


 水を入れた鍋をIHの上に置きスイッチを入れると、隣から涙目になった麻奈美がやってくる。


「どうしたの麻奈美ちゃん?」

「焦がしちゃった……」


 麻奈美の指指した先には、フライパンの上で焦げた肉があった。


「あちゃー……。これ私が処理しておくから、麻奈美ちゃんは別の作業してて」

「わかった!」


 焦げた肉を別のお皿に移し、冷蔵庫に入れて戻ると、麻奈美が野菜を鍋に投入しているの確認する。


(野菜スープは麻奈美に任せといて良さそうだな……)


 安心して、別の調理をしようとその場から離れようとすると、なんと麻奈美が大量のコンソメを入れようとしていた。


「待った! 待った! 入れすぎ、入れすぎ!」

「え、これ一個じゃ足りないでしょ……? 味薄くならない……?」


 その言葉を聞いて、亮は確信する。


(麻奈美、料理が下手な娘だ……。このまま、麻奈美だけに料理をさせるわけにはいかないぞ……)


 そう思った亮は麻奈美から目を離さないようにしようと決意した。


「麻奈美ちゃん、コンソメはこれ一個で十分なんだよ」

「そうなんだ。知らなかった」


 優しく麻奈美に説明をしていると、そこに恵梨香がやってくる。


「すいません、杏奈様……。お醤油を買い忘れてしまいまして、買ってきてもらえませんか?」

「な……なんで私が……」


 面倒くさそうに亮が言うと、恵梨香はため息を付いた。


「一番料理をできる人がいなくなったらダメでしょう?」

「た、たしかに……」


 しょうがなく亮はサロンルームを出る。


「なんで醤油なんて……買い忘れるんだよ……」


 ぶつくさ独り言を言いながら、昇降口へと向かう。


 すると、少し先で誰かの影が見える。


(誰だろう……?)


 気を付けて近づいていくと、なんと少し先に担任の佳苗が倒れており、桜が介抱していた。


「桜ちゃん! 先生どうしたの……?」

「わかりませんわ……。私も今気づいたところですの」

「わ、私も手伝うよ」


 介抱を手伝ってあげようと、近づくと佳苗が意識を取り戻す。


「先生、大丈夫ですの……?」

「……食べたい……」

「え……?」


 何かをぶつくさと言っているが、聞こえない。

 

 2人は先生の声によーく耳を澄ます。


「メガ盛りキャビア食べたい……」

「「はい??」」


 どうやら佳苗は空腹で倒れていたようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る