第15話

 ババ抜きが始まって15分。


 白熱した勝負となっており、亮は残り4枚。恵梨香と麻奈美は3枚で、唯は6枚だった。


 麻奈美のターン。隣にいる唯からカードを引こうとする。


「どれにしようかなー……」


 1枚のカードを選んで取ろうとすると、唯は笑みを浮かべた。


 逆に違うカードを選ぼうとすると、今度は沈んだ表情浮かべる。


「唯ちゃん、顔に出てるよ~?」

「え……えぇ!!」


 焦る唯を、横目に沈んだ表情を浮かべた方のカードを取った。


「ポーカーフェイスだよ。ポーカーフェイス~」


 そう言いながら、揃った2枚のカードを机に置く。


「ふぇぇぇぇ……。つ、次は私の番です……」


 唯の隣にいるのは恵梨香だ。


 どれを引こうか迷ってる唯を一切顔色を変えずに見ている。


「これ! ……やった。揃ったぁ!」

 

 満面の笑みで、揃ったカードを机に置く。


(揃うたびにすげぇ喜んでる……。可愛いなぁ)


 喜んでいる唯の姿を見て、和んだところで、次は恵梨香の番で、亮からカードを引こうとする。


 手に持った4枚のカードを見て恵梨香はしばらく吟味した後、1枚のカードを引く。


「ちっ……」


 どうやら揃わなかったようだ。


 恨みがましい目でこちらを睨み「許さない」と何度も呟いていた。


(いやいや、恵梨香さん……ゲームだから……そんなこと言わないで……)


 さて、ようやく亮の出番が回ってくる。


 麻奈美は亮に2枚のカードを差し出す。


(ていうか、誰がジョーカーを持ってるんだ……?)


 先ほどまで流れを見る限りだと、過剰な反応をした唯が持っていると考えるのが妥当ではある。


 となると、今目の前にいる麻奈美は安全だろう。


「どうしたの? 杏奈~? 早く引いて~」

「ごめん」


 せかされて、左側のカードを引くと、順当に揃い2組のカードを机に置いた。


(ふぅ……。やっぱりジョーカーを持ってるのは唯か?)


 最後の1枚となった麻奈美は、 笑みをこぼす 。


「よーし、これで揃わせてもらうよ。唯ちゃんカードを見せて」

「は、はい!」


 どれを選ぼうか迷う麻奈美に、唯は先ほどとは違い表情に出さないよう我慢していた。


「唯ちゃん、これにしようかな……」


 そう麻奈美が問うも、唯は何も反応しない。


 おそらく麻奈美は分かりづらいことこの上ないだろう。


「うぅぅ……これだ!」

 

 やけになった麻奈美が適当に真ん中を選ぶと、この世の終わりみたいな顔をする。


 やはり唯が持っていたようだ。


「唯ちゃんひどいよぉ……」

「ご、ごめんなさい……」


(別に謝らなくていいぞ……。それとよくやった)


 心の中で、亮は唯にサムズアップをしていた。


 




 麻奈美がジョーカーを手にしてから、またゲームは流れ、1人、勝ち抜けするものが現れる。


「やりましたぁ!」


 なんという強運の持ち主か、先ほどまで多くのカードを持っていた唯が1抜けしたのだ。


「おめでとう唯ちゃん」

「おめとうございます。唯様」

「なんで私は揃わないのー!!」


 未だにジョーカーを持ってる麻奈美は悔しそうに足をバタバタする。


 その後今度は恵梨香が勝ち抜けていく。


「お二人ともお先に失礼します」


 涼しい顔をしながら机へペアになったカードを捨てた。


 残りは2人で、麻奈美が3枚、亮が2枚だった。

 

(さてどれがジョーカーか……)


 カードを選んでいると、麻奈美が早く引けーと言わんばかりの表情で見つめてくる。


(うっ……めっちゃ見てくるな……。焦るな焦るな……)


 こうやって見つめてプレッシャーをかけてやろうと言う、魂胆だろうが、その手には乗らない。


 冷静に落ち着かせて、1枚のカードを引きぬこうとするが、なおもまだ麻奈美は亮の顔をずっと見つめている。


(な、なんでこんな見つめてくるんだよ……)


 気が付けば胸の鼓動が高鳴っていた。


 純粋な麻奈美の視線にときめていしまっていたようだ。


(くそぉ……!!!)


 やけになって真ん中のカードを引き抜く。


「……げっ……」


 なんと引いたカードはジョーカーだった。


 まんまと、麻奈美の策略にはまってしまったようだ。


 そのまま、麻奈美にジョーカーを引かれることはなく、亮がババとなってしまう。


「やったー! 勝った~! 杏奈が罰ゲームね~!」

 

(くそぉ……純粋な男の心をもてあそびやがって……)

 

「何でも言う事を聞けばいいんだよね?何を聞けばいいのかな?」


 そう聞くと、3人は悩みこんでしまう。


「とりあえず保留で」

「私も保留します」

「2人が保留なら、私も保留かなー」

「わ、わかったよ……」


 この時、亮は知らなかった。


 この何でも言う事を聞くと言う罰ゲームで、後でとんでもないことになってしまうという事を。

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