第20.5話「フィラトルの処刑者」


(注)こちらの話だけ、少しだけ残酷な描写があります。


―――――――――――――――――――――



「ひっ!?やめ……ぎゃあぁ!?」

「た、助けて………たす………ぐぶっ、」

「逃げろ!くそっ!今ならまだ間に……あ、」


無数の断末魔と共に、かつて生き物だった物の破片が宙を舞う。

断末魔だけではない。逃げ惑う同胞達の恐怖から来る悲鳴、心が壊れ、狂ったような笑い声、破壊された魔導機兵と兵器の爆発音、のいくつもが響き、混ざり合う。

ただ、この地獄を生み出した元凶である青年はそれに一瞥をくれる事もなく、淡々と殺戮を繰り返す。


部隊長である自分を護るように異形の部下の3体が目の前に立つ。そして……、

悲鳴を上げることも無く、目の前で仲間の首が3つ同時に宙を舞う……。


「……やめろ。」


返り血を被るも、それでも目の前の青年は歩き続ける。

ベルトで固定されたボロボロのマントをばさりとはためかせながら、ただ、こちらへゆっくりと……。

自分を庇うように立つ他の仲間達の上半身が粉々になって弾け飛び、残った下半身がゆっくりと倒れ伏す。


「……やめてくれっ。」


死が怖いのではない。


「がっ!?」

「ひ……っ、ぐぁあああ?!」

「は………、ははひハははハハハハハ!!何だよ、これは……、俺達は無て、き……、の………、」


共に歩んできた仲間が無慈悲にボロくずの様に殺されるのがただ悲しくて、苦しいのだ。


縦に両断され、血を撒き散らす者……。

纏った青い闇から伸びた無数の棘に串刺しにされて絶命する者……。


淡々と無惨に殺され、倒れていく。

しかし、断末魔がいくら鳴り響こうとも、青年はやはり止まる事はない。

青年は更に近付いてくる。フードで隠れたその顔に、何の感情を浮かべることも無く。

恋人が武器を構え、走り、奴の腕から生まれた竜のあぎとにその身体が咥えられ、顎が獲物を喰らわんと、ゆっくりと閉じられようとする。


「や、やめ………っ!」

「いやだ!どうして!?アタシ達、ただ言われた通りに人間達を殺しただけなのに―――!」


そうだ。我々はあのお方の指示に従ってそうしたまでだ。なのに、どうして………!


「やめろおおぉぉおおおおおおおおっ!!!!」


「―――――圧刑。」


青年の短い死の宣告と共に、竜の顎は重い音と共に閉じ、紅い花が目の前で咲き狂った。

少し遅れて血飛沫が雨のように降り注ぐ。


「クソぉおおおおっ!!!!」


恋人が殺され、怒りと悲しみ、恐怖に心が埋め尽くされる自分の元に、我々エンデ軍が恐れてやまない青年が目の前に歩み寄り、闇で作り出した身の丈程はあるであろう両刃の戦斧を片手で軽々と振り上げる。

四肢を潰され、這って逃げる事すら出来ないまま、その巨大な闇の刃を持つ男を睨み、忌々しげに吐き捨てる。


「…………処刑者エクスキューショナーめっ!!」


金色こんじきの眼の隻眼の男、処刑者エクスキューショナーと呼ばれた青年は無言のまま、闇の戦斧を振り下ろした。

殺される直前に、魔族の脳裏に青年のものはでない声が響く。


『――――受け入れよ、受け入れよ。正当なる■■を受け入れよ。』



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