第20話「8の世界・中編」

先生がメモを取り終えた姿を確認して、トート神は続きを話す。


「まずは2から5。2の世界には妖精のみが住んでおり、それ以外の種族は存在しない。善も悪も、両方存在する世界だが……、我々の住む世界の妖精に比べて、かなり快楽主義な者が多い。関わらん方が身の為だろう。続いて、3と5の世界。この2つは、ふむ……。今のこの世界、ファルゼアに近いかな?」

「と、言いますと?」

「今のところ、文明的にはかなり安定している。種族間の争いなど、この世界ではあまり起きない諍いこそあれど、悪神やハルモニアの神がちょっかいかけるなど、そういう危険な事件は起きていないのさ。」


「なるほど……。」と、先生はそこで机に置いたノートに先程よりも早くペンを走らせる。

トート神が私達に机や茶菓子、紅茶まで用意してくれたのだ。

私やフェンリルも、それらを口に運んで静かに聴き入っている。

先生の授業みたいで、聞いていて飽きないし、楽しい。


「さて、3の世界は先程話した通り、精霊、亜人種や、ここでいう魔獣達が住む世界。たぶんだが……、ロキはフェンリル達にここへ行くように言ったのではないだろうか。」

「恐らくな。もっとも、あやつは妾達がその選択肢を取るとは思っていなかったろうて。」


話を振られたフェンリルがそれだけ答え、また紅茶に口を付ける。

ロキさんといた時間は短いけれど、たしかにあの人はそう思っていたと思う。


「まあ、あの作戦も君達がいる事前提だったからな。話を戻そうか。5の世界だが、人間と亜人種、精霊、魔獣、魔族、妖精と、それらが混ざり合って暮らしている。いくつかの国に分かれて時折争っていること以外は、この世界に近いかな?」


たしかに、住んでいる種族的には一番近いかもしれない。

私は手にしたティーカップをソーサーに置いて、気になった事を聞くことにした。

たぶんだけど、わざと飛ばされた世界の事を。


「トート様。4の世界はどうなっているのでしょうか?」

「トートでいいよ、アリス君。神であることに変わりはないが、私はこの下界で司書をやってるだけの存在だ。偉くも何ともない。さて、君の気にしている4の世界、一番若い世界であるフィラトルだが………、1。」

「………本当ですか?」


呆然として呟く私に、トート神は「残念ながら。」と返した。

フェンリルは驚きはしていないものの、険しい顔をして、先生も悲しげに目を伏せて聞いている。


「あの世界はつい最近まで、エンデ神というハルモニアが製造した神が率いる魔族、妖精、魔導機兵の混合軍と、人間の少女が率いるレジスタンスとで種の存続をかけた戦いがあった。」

「神の軍と、レジスタンスの戦い……。」

「そうだ。どちらも大きな犠牲を払いながらも殺し合い、最後にはエンデ神と、レジスタンス側で処刑者エクスキューショナーと呼ばれた青年が戦い、相討ちになる形で両陣営の戦いは終結した。」


トート神は自身の横に、ある映像をふたつ映し出した。

1つ目は、深緑色の丈の長い軍服を羽織り、どこまでも冷たく感じるような笑顔を浮かべた白髪の男。恐らくだが、エンデという神。

2つ目はボロボロのマントと服でその身を包み、片目が潰れた、薄金色の髪の男性……、


「フィラトルの……、処刑者エクスキューショナー。」

「そうだ。彼の奮闘と、ある人物達のお陰で、あの世界は終焉を迎えなくて済んだのだ。」

「ある……、人物達?」

「君が知りたいであろう、聖銃と按手。その力の大源である七聖者達さ。」


トート神は私が身に付けている聖銃と篭手を見ながら答えたのだった。

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