第19話「8の世界・前編」
「第0……、世界。」
「うむ。この世界は原初の神が初めに生み出した世界であり、そこから暫くして……、残りの世界、1から7の世界が作られた。」
「待て、トートよ。原初の神の事など話してよいのか?開示情報制限は………、」
「ん?取っ払ったぞ、あんな物。まあ、中々苦労したよ。下界にろくすっぽ干渉してこない、傍迷惑な神々のルールに従うのも癪だからな。今は私の知る、全ての事象を語る事が出来るぞ。」
「汝もまたやりよるの……。」
トート神のあっけからかんとした態度に、フェンリルは苦笑しながら肩をすくめた。
「他の世界………。それはやはり、ファルゼア大陸のその先、海の彼方にある「光の壁」の先にあるのですかな?」
先生の言う「光の壁」……。
ファルゼアにある海域を更に囲う様に存在する、文字通りの光の壁で、未だそれを超えて先に行けた者はいないという。
アルシアさんがニーザちゃんから逃げる際に一度、国外逃亡を企てていたらしいけど、それが叶わないのはあの光の壁を越えられないのが理由だとか。
とは言え、あの人がそれをどこまで本気で言ったのかは分からない。
(素直じゃないところは、本当にニーザちゃんとそっくりだよね……。)
そんな事をぼんやりと考えていると、トート神は先生の問いに答えた。
「そう。第1から第6の世界は、我々の住む第0世界「ファルゼア」を囲うように存在している。そして、その世界のそれぞれも光の壁が存在し、通常の方法では他の世界に行く事は不可能となっているのだ。」
「ですが、戯神・ロキ殿がフェンリル殿達に仰っていた、他の世界に行っていい、というのは……、」
「無くはないのだよ、ディートリヒ君。ファルゼア大陸に存在する、天高く伸びる超巨大神器、天涯の大樹であれば高位魔族や神族などは世界観の移動は可能だ。」
「人間は使えないのですか?」
先生の質問に、トート神は「残念ながら。」と返した。
「あれは人間が使える様には作られていないからな。仮にあれでただの人間が移動しようとすれば、その衝撃だけで人間は死んでしまう。ギリギリ出来るとすれば、人間より頑丈な作りの亜人種くらいな物だよ。実際、この世界に巨人族が今いないのは、大規模侵攻前にスルトが天涯の大樹を使って、3の世界に避難させているのが理由だからな。」
「文献や遺跡に巨人族の痕跡があるのに、存在していないのはそれが理由だったのか……。」
先生はそれを聞いて、色々と考察を挟みながら胸ポケットにしまったメモ帳にペンを走らせ、トート神は満足そうな顔で先生を眺めていた。
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