第18話「今ある問題」

「彼から生まれた、君達が浄化している魔獣達。これからそれをどうするかは君達、今を生きる者次第だ。」

「私達は変わりません。変わらず、魔獣を浄化し続けていきます。ただ………、」

「それをよしとせん者達がいるのも事実じゃな。」


私はフェンリルの言葉に頷く。

フェンリルの言う通り、必ずしも魔獣の存在に好意的な人達ばかりではない。

人間から迫害され、元の住処から追い出されてしまった魔獣も中にはいる。

そういった子達は現在、グレイブヤードで保護をしつつ、その間にフリードリヒ陛下が土地の確保をし、魔獣保護区を設ける準備をしているのが実情だ。そして………、


(そういう意味合いでは、アルシアさんには申し訳が無い……。)


アルシアさんは、本人は口には出さない物の、フレスさんから問題が起きそうな区域だけを聞き、そこを率先して選び、特異魔族の討伐、または撃退と魔獣の浄化、保護を行っている。

鎖の力が強くなり、私たちの中で唯一、大規模の転移が出来るからというのも大きいとはいえ、嫌な役を文句も言わずに請け負ってくださってる事には本当に頭が上がらない。


「そういう意味では、アルシアには本当に嫌な思いをさせているの……。」


私と同じ事を考えていたらしい、フェンリルも、少し悲しげに呟いた。

一回、自分達もやるとアルシアさんに言ったのだけど、あの人は何を言っても折れなかったのだ。


『こういう汚れ仕事は暫くの間は俺一人でやるよ。暫くは俺が引き受けて、軽い案件だけは回すかもだけどな?』


知らなきゃ知らないで問題になるからと、アルシアさんは笑い、それだけ言って、また任務に出向いた事を思い出す。

特異魔族をどうにかして、魔獣を浄化する。

それだけで終わりじゃない。だから……、

私は改めて目の前の仮面を付け、燕尾服を着た知恵の神、トート神に向き直る。

彼に言って、どうなる訳じゃない。

それでも言う。ある種、これは私自身へ言い聞かせ、誓う為の物でもあるから。


「私達は変わらず、魔獣を浄化していきます。そして、いつの日か……、あの子達が人間と共存出来る様、私はこれからも戦い続けるつもりです。」


そう宣言した私を、トート神は静かに見つめていた。

いつ、そんな日が訪れるかは分からない。

もしかしたら、そんな日は来ないかもしれない。

だからこそ、そんな日が来る可能性が少しでも高まるように、今すぐにでも動かなければ、と思うのだ。


いつか、彼ら魔獣達が魔獣と呼ばれなくなる……、

人が魔獣を迫害する日が無くなる日常を……、

そんな日が来るよう、私は――――、


「むぎゅっ、」

「ほぉ。」

「おお……。」


などと一人で思っていると、フェンリルの胸に顔を埋められた。

もぞもぞと顔を動かすと、フェンリルは不機嫌そうにジト目で私を見下ろしていた。


「ふ、フェンリル?」

、じゃろう。一人でやろうとするでない。馬鹿者め。」

「むーーー!?」


ちょっとだけいじけてしまったフェンリルの胸にまた顔を埋められ、藻掻いていると、笑い声が響いた。トート神の物だった。

何だろうと思って2人でそちらを見ると、彼は穏やかな笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「その様子なら、大丈夫そうだな。」

「アリスがどう答えるかなど、汝は分かっていたろう?少しばかり、間違ってたがな。」

「ふぉ、ふぉふぇんへごめんね?」


まだ文句があると言いたげにほっぺを摘まれ、私は顔を赤くしたまま謝ると、満足したのかフェンリルはようやく手を離してくれた。


「まあ、困難も多かろう。どうしようもない出来事だってあるかもしれない。そこで、司書である以上、出来る事は少ないし、役に立つかは分からないが君達にある話をしよう。」


私と先生、フェンリルが何だろう?とトート神を見ると、彼は愉快そうに、語り聞かせるように言葉を紡いだ。


「君達が知りたい、この第0世界より、の世界の話だ。」


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