第16話「トゥーヴァの狐と猫・後編」

あの後、影の手で雁字搦めにされたダーク・ウルフ達に、ニーザちゃんは再び幻術を掛けてしっかりと脅した後、3体のダーク・ウルフの首にある魔法を仕込んだ。


「これで良し、と。もう悪さをしたら駄目よ、貴方達。」

「あ、あの……、この首に付いた魔法は何なんでしょう………?」


にっこりと笑う大人のニーザちゃんが仕掛けた魔法について、ダーク・ウルフ三兄弟が恐る恐る質問すると、ニーザちゃんは暗い笑みを浮かべて、恐ろしい単語を口にした。


「爆弾よ。」

「ば、ばく…………!?」


ダーク・ウルフ達が真っ青になったけど、ニーザちゃんはそれに構わず、相変わらず笑顔で続ける。


「貴方達が特定の悪さを働こうとすると、それがスイッチとなって、仕掛けた魔法が起動する。貴方達の身体は内側から粉々に吹き飛ぶわ。どうなるか………見たい?」


ニーザちゃんがにっこりと笑いながら、指を鳴らす構えを取ると、ダーク・ウルフ達は同時に首を凄い勢いで振りながら「結構です!!」と叫んだ。

それを見て、ニーザちゃんは「ならいいわ。」と頷いて、手を下ろす。


「じゃあさっさと村の人達に謝罪をして何処へなりと行きなさい?それで今回は見逃すわ。」

「は、はい!トゥーヴァの村の皆様、すみませんでしたぁっ!!!」


ダーク・ウルフ達は様子を見に来た村人達に一斉に頭を下げて謝罪をした後、風のように逃げ去っていった。

ムーン・フォックスはその様子を呆気に取られた様な顔で見た後、静かに去ろうとする。だが……、


「逃さないわよ、貴方は。いい加減、村の人達の想いを聞いてあげなさい?」

「なっ!?」


ニーザちゃんが再び影から拘束用の手を無数に生み出してムーン・フォックスを拘束し、動けない様を見てから下がる。

入れ替わりで村人達、そして、シー・キャットが彼の下に大挙する。


「いつも守ってくれてありがとうな!」

「これ、うちの畑で採れたものだから受け取ってちょうだい。」

「白い狐さん、ありがとう!」

「いや、別に大した事は……、」


影の拘束も解かれ、お礼を言われたムーン・フォックスはたじたじになりながらそっぽを向いた。

それを見て、私達は顔を見合わせて笑う。


「やはり、お礼を言われるのが恥ずかしくて逃げ回っていたようじゃな?」

「そうみたい。」

「アルシアもあれくらい可愛げがあればいいのに……。それよりも、シーちゃんが言うみたいよ?」


ニーザちゃんにうながされ、再びそちらを見ると、顔を赤くしたシー・キャットがムーン・フォックスの前に立ってもじもじしながら何かを言おうとした。

ムーン・フォックスも、何を言われるのか察しているらしく、同じ様に顔を赤くして目を逸らしている。


「あ、あの………、ムーン・フォックスさん。何度も助けていただいて、ありがとうございます。すごい嬉しかったです……。」

「そ、そうか……。」


全員に見守られる中、2体の魔族は顔を赤くしたまま、俯く。

暫しの沈黙が訪れ、それを破ったのはシー・キャットだった。


「あの、私、貴方の事が……!」

「…………っ!!」

「って、ちょっと!?待ってくださーい!!」


ムーン・フォックスは空気に耐えきれなくなって、先程のダーク・ウルフ達の様にすっ飛んで逃げ去り、それを見たシー・キャットが急いで追いかけていく。

私達はやっぱりか……、と村の人達と共に項垂れる。

その光景を見ていた村長夫婦が、私達に近づいて来て頭を下げられた。

 

「皆様方、本当にありがとうございました。」

「ええ、本当にありがとうね。私達もちゃんとお礼を言えたし、シーちゃんは………、あの様子ならしっかり捕まえてくるだろうし、大丈夫でしょ。もう本当に何とお礼を言っていいのやら。」


マーサさんに再度、丁寧に頭を下げられたので、私は少し焦ってそれを手で制する。


「気にしないで大丈夫ですよ!私よりも、ニーザちゃんに………っ、」


そんな時だった。

私とフェンリルに念話が届く。


『こちらアルシア。アリス、フェンリル、聞こえるか?』


念話を飛ばしてきたのは、先程話題に上がったアルシア・ラグド、その人である。


「はい、こちらアリス。アルシアさん、どうしました?」

「汝から念話で語りかけてくるとは珍しいの?」


フェンリルの言う通り、あまり自分から念話を飛ばさない人なので、何かあったのかな?と思いながら聞いてみた。


『あと数日で遺跡図書館トートが復活する。あそこなら、魔獣の調査が一歩進むはずだ。俺も今、トゥーヴァの方から王都に向かってる途中だが、何処かで合流するか?』

「あ………、いいかもしれないですね?」


トゥーヴァの近くにいる。

それを聞いた私とフェンリル、こっそり念話を傍受していたニーザちゃんの顔が同時に暗い笑みに変わる。

ニーザちゃんが2人に分かれて、頷き合うのを見てから、私はアルシアさんにある事を口にした。


「実は今、私達もトゥーヴァにいるんですよ。」

『ん、そうなのか?トゥーヴァは目の前だし、なら今から―――――、』

「ああ。、丁度よかろう?」

『…………………え?』


あまりの間の抜けた声に噴き出しそうになるのを何とか堪えていると、そこで初めてニーザちゃん達が会話に混ざり込む。


「ハァイ、アルシア。貴方から私達に会いに来てくれるなんて、嬉しいわ。」

「アンタがいるのは………、北の方角ね?待ってなさい、すぐに………!」

『えーと………、という事だ!アリス、みんな、またな!!』


そこでブツン、と念話が切れると、予想してたとばかりにニーザちゃん達が翼を広げて飛び始める。


「2人とも、ごめんなさい。私達、これからアルシアを追うから。」

「今度、暇を見つけて4人でご飯でも食べましょ!!」

「うん。またね、ニーザちゃん達!」

「アルシアにキツイ一発でもお見舞いしてやるんじゃぞ!」


2人のニーザちゃんは返事を返して、凄い勢いで飛び去っていく。

遠くの空で赤黒い雷が落ちたけど、いつもの事なので気にしない事にして、私はある事に気付いて、口に手を上げながら「あ。」と声を漏らす。


「どうしたのじゃ、アリス?」

「ムーン・フォックスとシーちゃん。2人して行っちゃうから、浄化するの忘れてた……。」

「………アルシアみたいな狐じゃったから、失念しておったわ……。」

「帰って来るの、待たないとだね?」


それから数時間後、2体一緒に戻ってきたムーン・フォックス達を浄化し、私達はトゥーヴァの村を後にした。


後に聞いた話だと、2体とも、今は村長夫婦の家で仲良く一緒に暮らしてるのだとか。




―――――――――――――――――――――


第3章「トゥーヴァの狐と猫」・完


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「災い起こしのアルシア」本編もよろしければ、どうかm(_ _)m

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