第15話「トゥーヴァの狐と猫・前編」

村に滞在して数日後、遂にその時は来た。


「来たぞ、アイツらだ!!」

「みんな逃げろ!家に避難だ、早くっ!!」


ダーク・ウルフがいつもの様に悪さをしに来たのだ。

彼らは人を殺さないものの、食料を奪い、作物を荒らしたり、建物を壊すのだ、と村長夫婦から教えてもらっている。


村の人達は彼らを見るや否や、大声で叫んで家の中へと避難していく。


そこへ、シー・キャットを連れた私達は変装魔法などを使ってダーク・ウルフに気付かれないように近付き、彼らが村の作物を荒らし始めた時に変装を解いてから姿を現した。

それを見て、ダーク・ウルフ達が驚いたように叫んだ。


「あ、兄貴!こないだの奴らだ!?」

「くそ!こいつら隠れてやがったか!!」


「特異魔族の中にも、妾達の事を知ってたり知らなかったり、色々おるのう……。」

「たしかにそうかも。何なんでしょうね……。」


2体の魔族の会話を聞きながら、フェンリルは何となく気になった事を口にし、私もそれを聞いて、首を傾げる。

ただ、私達がダーク・ウルフを前にしてるのにそんな事を呑気に考え始めたのが気に入らなったのか、彼らは少し苛立った様に唸り始めた。


「俺らを前に余裕そうにしやがって。仕方ねえ!やっちま………、ぎゃあああ!?」


3匹目のダーク・ウルフが何かを言おうとしたが、何処からともなく放たれた火球によって吹き飛ばされ、遮られてしまう。

私達がそちらの方を見ると、そこには件の魔獣、ムーン・フォックスが立っていた。

彼は咥えていた短剣を地面に刺した後、呆れたように言葉を漏らす。


「またお前たちか……。いい加減、追いかけっこも飽きてきたところだ。そろそろ仕留めさせてもらうぞ。」


ムーン・フォックスは再び短剣を口に咥え、それに風を纏わせたあと、姿勢を低くした。

やっぱり、今回の魔獣は特異魔族側よりも強いらしく、高密度の風の刃を纏わせた短剣を見て、ダーク・ウルフ達が息を呑んで後退った。

そこで……、私達の後ろに隠れていたシー・キャットが飛び出す。


「ムーン・フォックスさん!あの、私……!」

「駄目!シーちゃん戻って!?」


シー・キャットが私の静止を聞かず飛び出して、それを見たダーク・ウルフがチャンスとばかりに彼女目掛けてその牙を向ける。


「ちっ!あの馬鹿!!」


弾丸の様に純白の狐が駆けるけれど、間に合わない。


「兄貴!アイツを捕まえちまえば、あのクソ狐は何も出来ねえぞ!!」

「よし、残念だったな!狐野郎!」

「きゃあぁあああああ!!」


シー・キャットが迫り来る3匹の黒狼を見て、悲鳴を上げた。

そして………、


「――――――なんてね?」

「なに?!」


シー・キャットは相手が罠にかかったとばかりに口を歪め、ダーク・ウルフの影から無数の影の手を生みだして、ダーク・ウルフを拘束する。


「な、なんだ!何が起きた!?」

「くそ……、全然外せねえぞ………っ。」

「く、苦しい………っ、」

「いい演技だったわよ、アリス。」


突然現れた影の手に身体をギリギリと締めつけられ、苦しそうに呻くダーク・ウルフの前で、シー・キャットと私の隣にいるニーザちゃんの姿がガラスが砕ける様にパキリ、と砕けてその本来の姿を現す。

ニーザちゃんの幻術、黒翼幻夢フォールスだ。


私の隣にいるニーザちゃんの姿が白藍色の猫の魔獣、シー・キャットへと変わり、ダーク・ウルフが襲おうとした猫の魔獣の姿が、貴族の着るドレスに似た、赤と黒の戦闘装束を身に纏った大人の方のニーザちゃんの姿へと変わっていく。

ニーザちゃんは冷たい笑みを浮かべ、突然現れた破壊の化身に怯えて涙目のダーク・ウルフの鼻先に錫杖を突きつけ、歌うようにその落ち着いた声を響かせた。


「オイタをした子達にはお仕置きをしないとね?」

「あ…………ひっ。」



数秒後、ダーク・ウルフの悲鳴が村中に響いたのは言うまでもない。

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