第13話「どっかの誰かさんに似ている狐」

「お爺ちゃん、お婆ちゃん、お客様がいらっしゃいましたよ!」

「あらあら、シーちゃん。ありがとうね。」

「えへへ……。」


魔獣であるシー・キャットに連れられ、私達はトゥーヴァの村の村長宅を訪れた。

シーちゃんと呼ばれたシー・キャットは村長、トムさんの妻であるマーサさんの下に走っていき頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細めている。

狼くらいの大きさの猫だけど、やっぱり大きさは変わっても猫らしい。

途中ですれ違った村の人達も、彼女をただの大きな猫と見ているようだった。

可愛いな……、と眺めているところで、依頼人であるトムさんが私達の前に来た。


「よくお越しくださいました。ヴァルコアピラの乙女の方達ですね?」

「はい。私は部隊のリーダーのアリス・リアドールと申します。彼女達は…………」


フェンリルとニーザちゃんの紹介をすると、トムさんとマーサさんは一瞬驚いたものの、すぐに笑顔になった。

人によっては、フェンリル達に偏見を抱いたりする場合もあるので、こういう反応でいてくれるトムさん達みたいな人は本当にありがたい。

トムさん達も自己紹介をしてくれ、本題に入る事になった。


基本的に私達の魔獣調査は、フレスさんが使い魔で集めてくれた情報を基に動くけれど、こういった形で現地の方から依頼がギルドを通じて入ってくる事もある。

今回はフレスさんからの情報と、現地からの依頼、この両方が合わさった形だ。


「この村の近辺に住む3体の狼の魔族の対処と、白い狐の魔族とコンタクトを取りたい、ですか……。」


それを聞いて、私はフェンリルとニーザちゃん、3人で顔を見合わせる。

3体の狼の魔族とは先程のダーク・ウルフの事でいいだろう。

白い狐の魔族……、これもダーク・ウルフを追いかけていた魔獣、ムーン・フォックスで合ってるはず。

(なら、この子は?)

私達は見合わせた顔をほぼ同時に、マーサさんの横にいるシー・キャットに向ける。

突然視線を向けられて不思議そうに首を傾げている彼女はどこから来たのだろう?


アンファの村のゾルダート・ゴブリンの時のように、魔獣は群体として現れる事もある。

ただ、あの子達は群体ではあったけれど、放つ気配は個々の物だったのだ。

けれど、この子は違う。

放っている気配が、ムーン・フォックスと同じだ。

何度か魔獣と接触してるけど、今回の事例は初めてだった。

私は気になった事を村長に聞く事にする。


「村長さん。あのダーク・ウルフとムーン・フォックス、シーちゃんが現れたのはいつくらいか分かりますか?」

「たしか、先週くらいでしょうか。」

「シーちゃんが現れたのも同時期くらいですか?」

「うーん………、そう、ですね。この子が現れたのは殆ど同じ時期くらいだったかな。」


村長が思い出したように答える。多分だが、ムーン・フォックスとシー・キャットが現れたのは一緒だろう。

今度はフェンリルが、シー・キャットに質問する。


「汝とムーン・キャットはどういう関係じゃ?」

「えーっと………、私が恋する相手です!」

「…………は?」


予想外の返しに、フェンリルの目が点になる。

私とニーザちゃんもそうなので、人の事は言えないけれど。

そこで、マーサさんが話に入ってくる。


「今回の依頼はね。たしかに私達が出した物だけど、シーちゃんのお願いも入ってるのよ。」

「シーちゃんの、お願い……。」


私が繰り返す様に呟くと、マーサさんは「そう。」と返しながら、満足そうに微笑んで頷いた。

詳しい話を聞くと、私が結果的に追い払ったダーク・ウルフが村に現れて悪さを始めた頃、あの短剣を咥えた魔獣、ムーン・フォックスがやってきて彼らを追い払い、村を救ってくれたという。

それ以来、ダーク・ウルフが現れると必ず彼らが現れ、追い払ってくれるのだとか。

村長夫婦を含め、村人がお礼を言おうとしたり、食べ物を渡そうとしたが、ムーン・フォックスは仕事を終えると即座に去ってしまい、未だにそれは叶わないらしい。

そして、彼らよりも遅れて村にやってきたシー・キャットもムーン・フォックスに救われ、それ以来、恋心を抱いており、それを伝えようとすると、やっぱりすっ飛んで逃げるのだとか。


それを聞いて、私の顔は自然とジト目で唇を尖らせた顔になる。

私の顔を見たフェンリルが困った様に笑いながら「まるでアルシアみたいじゃな。」と漏らし、他人事では無いと思ったのか、ニーザちゃんはシー・キャットの前にしゃがんで、その肩に両手を置いて、ただ一言。


「協力するわ!いいわね、アリス、フェンリル!」


元々そのつもりとはいえ、誰よりもやる気のニーザちゃんに、私もフェンリルと同じく、困った様に笑うのだった。


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