第10話「5の聖者を鷲は見つめる・前編」
「
フェンリルと先程の女性が見守る中、私は目の前に座り込んでいるクライン・コボルトに魔獣浄化の魔法を発動する。
魔法によって発生した光のヴェールがコボルトの身体を包み、肉体から黒いモヤのような物、魔族の身体を構成する悪性が吐き出され、今度は待機中の魔素が入れ替わりにクライン・コボルトの身体に注がれ始める。
事前に説明して了承をもらってるとはいえ、やはりクライン・コボルトは自分の身体に起きている現象に驚いていた。
因みにコボルトがクリムゾン・オーガに受けた傷に関しては、女性が浄化作業を始める前に、また聞いたこともない術であっという間に治してしまっている。
(魔法じゃない?でも、神術に似てるようで違うみたいだし、何なんだろう……。)
一人、彼女の力の正体を考えていると光のヴェールはクライン・コボルトの身体を構成していた悪性と共に静かに消えていく。
取り敢えず、これで浄化作業は終わりだ。
私がコボルトに「もう大丈夫だよ。」と声をかけると、彼は私にお礼を言ったあと、女性の方へとてこてこと歩いていき、その頭を下げながら謝った。
「あの、怖がってごめんなさい!」
頭を下げられた事に、女性は一瞬驚いたみたいだけれど、すぐに優しい笑顔を浮かべてコボルトの頭を撫でた。
「ううん。私こそ怖がらせちゃってごめんなさいだね。手加減とかちょっぴり苦手で、ここにアシュリーちゃんがいたら間違いなく怒られるもん、これ。」
困った様な笑みを浮かべた後、女性は自身が倒したクリムゾン・オーガ――だったもの――を見る。
そこには血溜まりがあるだけだ。死体なんて何処にもない。
(これは手加減がちょっぴり苦手、とかいうレベルではないよね……。)
アシュリーという人物がどういう人かは知らないけれど、確かに毎回こんな真似をすれば怒られても仕方ないだろう。
ただ、彼女を……いや、彼女の剣技を見て、引っかかった事がある。
水面の様に静かで、けれど、自由自在に姿を変え、風の様な速さと鋭さで何もかも斬り裂くあの技……。
(あれは、まるで………、)
「アリス?」
「あ、ごめんね。何でもないよ?」
心配して声を掛けてくれたフェンリルに慌てて返しながらも、私の頭にはある人物の姿が浮かんでいた。
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