第9話「謎の女性」
私達が辿り着くと、そこには長い杖と籠を持ち、法衣を着た女性が立っていた。
まるで絵画や、教会のステンドグラスからそのまま出てきたような…………、本物の人間ではないのではないか?
そう思ってしまいそうなくらい美しいプラチナブロンドの女性が特異魔族である、クリムゾン・オーガの前に静かに佇んでいる。
背後にいる怪我したクライン・コボルトを庇う様に。
彼女は手にした魚の入った籠を足下に置いて、どこまでも穏やかな笑みを浮かべて目の前の巨大な魔族を見上げていた。
「退け、人間。それとも貴様から喰われたいか?」
クリムゾン・オーガは辺りが震える様な声を響かせて、女性に退くよう促した。
しかし、女性は静かにゆっくりと
「怪我を負って怯えている者を前に、私は引くことは出来ません。ですので、どうか――――、」
ギンッッ!と、鈍い音が響いた。
女性が言い終える前に、オーガは手にしていた岩で出来た斧のような塊を女性の頭目掛けて叩きつけたのだ。
私はそれを見て前に出ようとして、止まる。
響いた音に違和感を覚えたからだ。
「………いきなり酷い方ですね?」
収納魔法から出したのだろうか?
女性は穏やかな笑みのまま、いつの間にか握っていた身の丈ほどはありそうな細身の剣でクリムゾン・オーガの放った一撃を片手で難なく受け止めて、弾き返した。
クリムゾン・オーガは武器を弾き返されただけだというのに、その場でバランスを大きく崩して尻餅をつく。
クリムゾン・オーガは一瞬、何が起きたのだと目を瞬かせていたけれど、すぐにその表情は怒りに変わり、手にした岩の斧に魔法を乗せて、地面に叩き付けた。
周囲が揺れ、赤い炎が噴き上がり、一直線に女性へと向かっていく。
「
大地を崩壊させながら敵対する者を灼き尽くす上級火属性魔法が女性に一直線に走る。
避けてしまえば、背後にいるコボルトに当たる。
怪我があろうと無かろうと、仮にコボルトに当たってしまえば、死んでしまうのは間違いないだろう。
私が深紅崩壊に干渉しようとした時、女性の口から聞いたこともない術の名が紡がれた。
「
女性が手にした杖の先でコツン、と地面を叩くと、噴き上がった炎は静まり返り、盛り上がった地面が塞がれていく。
私は目にした光景に驚いたけれど、それは私だけじゃなかった。
術を放ったクリムゾン・オーガですら目を見開いて唖然としている。
「なんだ、お前は…………!?」
しかし、女性は答えない。
代わりに祈りの様な言葉を紡いで、手にした剣を構え直す。
「血に染まりし、その罪、生命に赦しを……。」
女性は構えた美しい片刃の長剣を、ゆっくりとなぞる様にクリムゾン・オーガに向けて持ち上げて、そして、それ以上何もせずに手にした剣を霧散させてしまう。
(何を…………?)
そう思った時だった。
「――――――――え?」
クリムゾン・オーガの身体が音もなく、細切れになって崩れ去ったのだ。
女性はクリムゾン・オーガだった物に背を向けると、今度は背後にいるクライン・コボルトに視線を向けた。
コボルトは………、当然というか怯えていた。
ぴるぴる涙目で怯えて、助けを求めるようにこちらを見ているし。
そして、それを見た女性は「あちゃー……。」と苦笑したあと、イタズラが見つかった様な子どものような顔でコボルトに続いて、こちらを見て、口を開いた。
「浄化………、手伝っていただけますか?」
「え……?」
目の前の女性が、関係者や被害者以外、知る筈のない言葉を口にして、私はまた困惑した。
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