第2章「5の聖者を鷲は見つめる」
第8話「アリスとフェンリルの距離」
フレスさんとニーザちゃんが作った特異魔族と魔獣専用探知魔法に引っかかった反応を追って、私達はサーダリア森林を進む。
狼の姿に戻ったフェンリルの背に乗って揺られながら私が森の先を見つめると、フェンリルは思い出したように口を開く。
「そう言えば、ドワーフから送られてきたスヴェールドとクリンゲの調子はどうじゃ?」
「凄く使いやすいよ。パトリックさんに今度、御礼言いにいかないとね。」
私は背中越しにこちらに振り向いたフェンリルに向けてにっこりと笑顔で返してから腰の杖と靴に被せた鉄靴を見る。
アンファの村での仕事が入る少し前……、1週間くらい前だったかな?
ヴェルンドの村で私に怒られたドワーフのリーダー、パトリックさんから「是非使って欲しい」と手紙付きでこの2つの装備が送られてきたのだ。
見るとそれは、神術に対応した合金で作られた特殊な装備で、近接戦闘に特化した作りとなっている。
強度もしっかりしていて、スヴェールドは魔法や神術を纏わせなくても、そのまま長めのナイフとして使えるし、クリンゲの方も、魔法や神術を蹴り飛ばしてもびくともしない。
本当にかゆいところに手が届く装備だった。
試しにホーリー・ストームを蹴飛ばして魔族に当ててるところを見ていたフェンリルには、少し引かれてしまったけど……。
未だに手紙でお嬢呼びなのを思い出して苦笑してると、フェンリルが笑ってるのに気付いた。
「どうしたの?」
「ん?ああ……。ドワーフもそうだが、汝も変わったな……と、そう思っていただけじゃよ。」
「フェンリルへの話し方とか?」
「まだ固いがな?」
「むぅ。しょうがないじゃないですか……、まだちょっと恥ずかしいし……。」
フェンリルと一緒に旅を始めてある日、自分への話し方を変えて欲しい、とお願いされたのだ。
最初はちょっとだけ悩んだけど、たしかに自分の接し方は友人達にも時折固い、他人行儀と言われる事がある。
だからというのもあるけど、フェンリルにだけはそういう風に思われたくなくて、どうにか変えてみたら、これが未だに恥ずかしい。
何か、自分の内側を曝け出してるように感じてしまうからだ。
そんな自分の気持を察してか、フェンリルは狼の姿のまま、意地悪く微笑んでいた。
「もう……、バカ。」
私は恥ずかしさを隠すように悪態を付いて、そのふかふかの背中に顔を押し付けて隠す。
暫くそうしていたけど、目的の気配を感じたので、フェンリルの背中から降りて気配の方向へ視線を向ける。
フェンリルも人の姿になりながら、口を開いた。
「見つけたな。じゃが………、」
「うん。」
何かに気付いたフェンリルに短く返して、探知魔法で更に細かく気配を探る。
やはり、特異魔族と魔獣、同じ場所に両方いる。
この二種は何が原因か分からないけれど、何故か必ず近くにいる。
それ自体はいい。探す手間が省けることが多いし。
問題はもう一つ。
「誰か、いるみたい…………。」
特異魔族と魔獣と同じ場所………、それも間に人が居るらしい。
「急いだ方がいいよね………って、フェンリル?」
「ん?ああ……、すまんの。たぶんじゃが、大丈夫かもしれんぞ?」
「………どういうこと?」
怪訝な顔をしてフェンリルに聞くが、彼女は曖昧に微笑んで走るので、私は首を傾げながら追いかけるのだった。
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