第7話「ヴァルコアピラの乙女」
「………どうしたのじゃ、アリス。またアルシアを睨んでる時の様な顔になってるぞ?」
フェンリルに言われるものの、残念ながら表情を変えることは出来そうにない。
たしかに、未だにニーザちゃんから逃げ回っているアルシアさんに向けるような、ジト目で唇を尖らせた顔になっている。
仕方ないじゃない。だって………、
「なんで私が実動部隊のリーダーなんでしょう……。一応、まだ学生なのに。」
「代わってやりたいが、ヴァルコアピラの乙女の主導しているのはファルゼア王国じゃ。グレイブヤードから派遣扱いの妾がリーダーになる訳にもいくまい?」
「それはそうだけど………、」
仕方ないな、と笑うフェンリルに撫でられながら、子どもみたいに文句を言う。
それを見た陛下と会長も、本当に申し訳無いと言うように、頭を下げながら苦笑いしていた。
そう、この新設された組織の実動部隊リーダーは私なのだ。
部隊章も私の好きなシロツメクサと、フェンリルを表す銀狼を刻んだ物で、凄い気に入ってるけれども。
それでも、最初は学生だし、そんな大役は出来ない、無理だとキッパリ言ったのだけれど、調査対象で且つ、討伐対象でもある特異魔族の殆どは残念ながらまともに相手できる人間が私達を除いて全くと言っていいほどいない。
志願者は居たのだけれど、全員返り討ちに遭っているのだ。
たまに人間に危害を加える気のない特異魔族もいるけど、それを最初から探し当てる事は出来ないし……。
現在、崩壊したグレイブヤードの復旧を行っている、もう一人の魔王であるフレスさんこと、フレスベルグが集めてくれた情報によると、特異魔族と魔獣は、魔族全体で見ると数こそ少ないものの、基本的にはどの個体も従来の魔族よりも遥かに強く、下手すればグレイブヤードの外にいる時の高位魔族に届きかねない存在もいるのだとか。
よって、実動部隊は私と副リーダーにフェンリル、一般隊員でアルシアさんの3人だけ。
あとは王国やギルド、各亜人種の中から選りすぐりの精鋭の方達が後方支援や事後処理などを担当してくれている。
それはいい。いいんだけど………、
「リーダーやれそうな人がリーダー出来ない理由が腹立ちます………。」
「まあまあ。アルシアもほら、ね?」
「フリード。汝はアルシアに甘過ぎるぞ。」
「そうよ、フリードリヒ。どこの世界に自分の事好きな女の子から逃げるのに忙しいから部隊のリーダー出来ませんなんて人間がいるの。」
「一応、逃げながらでも特異魔族の討伐や撃退、魔獣の浄化もしっかりこなして、報告書も出してくれてる訳だし……。」
苦し紛れだが、中々文句の返しようも無いフォローをする陛下の言葉を聞いて、今度はフェンリルと会長が溜め息を吐いた。
「そうなのよね……。アルシア君、あんなんでも仕事だけはちゃっかりやりながら逃げ回ってるんだもの。」
「質が悪いとはこの事よ……。一度、妾達でとっ捕まえて説教するのも有りやもしれぬな……。」
「あら、そうしましょう。フェンリルさん!物申したい女性魔導師の子達も沢山いるみたいだから、皆で、ね?」
私は2人の会話を聞いて、うんうん、と頷く。
うん、それはいい。
とっ捕まえて是が非でもやるべきだろう。
2人の話通り、アルシアさんはあの日からずっとニーザちゃんから逃げ回っている。
何でも「俺はもっと遊びたい!」と寝ぼけた事を宣っていたのだとか。
一度、「ヴァルコアピラの乙女」設立の際に無理矢理来てもらったけれど、その後もまんまと逃げおおせている。
そんなしょうもない理由で部隊のリーダー役を押し付けられた私の身にもなってほしい。
一応、この活動をするだけで学校の単位は出るし、卒業後の将来も保証すると言われてるが、それだけではどうにも納得できない。
陛下が苦笑いを浮かべて見守る中、私もフェンリル達の会話に混ざって、アルシアさんへのお仕置きを考えるのだった。
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第1章「あの日から1年後……」・完
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「災い起こしのアルシア」本編もよろしければ、どうかm(_ _)m
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