第4話「燃えさかる村の竜とゴブリン・4」
「マーク!手持ちの薬草と止血剤、ポーション、ありったけ寄越せ!!アンナ、俺はもう動けるからいい、あとは回復魔法はコイツらに頼む!!シルヴァ、お前は今からこっちに向かってくる王国軍のところまで走って、事情を話して治療に使えそうなもん、手当たり次第貰ってこい!!」
「え、ちょっと待て……、こいつら魔族だろ?どうして……」
「馬鹿野郎、こいつらは俺達の命の恩人だ!こいつらがいなきゃ、俺もマークも、その人達も死んでたんだ!くだらねえ事聞いてねえで、お前はとっとと行きやがれ!!」
今まで見たこともない剣幕で怒鳴るクリスに戸惑いながら、シルヴァは大急ぎで走り、代わりにアンナが叫ぶ。
「駄目!回復魔法掛けてるけど、全然効かない………、どうして!?」
「……くそ!アンナ、効かなくてもいい!そのままかけ続けてやってくれ!マーク、俺達は薬草と止血剤で何とかするんだ!!」
「う、うう………、」
「諦めんな!俺達が何とか助けてやるから!!」
自分達の事など後回しだと、クリスとマークは手持ちの道具で治療を試みていると、先程の親子達が来て、追加の道具を持ってきてくれた。
「あの、これを!私達を守ってるところを見てた人達も証人になって、貰ってきてくれたんです!どうか………!」
「助かる!」と、渡された道具を受け取ろうとすると、治療を受けていたゾルダートゴブリンが何とか片手を上げて、それを制した。
「俺達は、いい……、自分達に使ってくれ……。」
「そんな事出来るか!」と、クリスが叫ぼうとした時だった。
「落ち着いてください。彼らの身体は人間とは違う。薬草はともかく、回復魔法やポーションは効き目がありません。」
トイフェルと名乗る竜がいた方角から、先程の少女が走りながら言う。
もしかして……、と思いながらもクリスは気になった事が自然と口から漏れる。
「……君。さっきの竜は?」
「倒しました。なので、これ以上の心配はありません。それよりも……、」
あの巨大な竜を、この少女が……!?
確かに、あのトイフェルと名乗っていた竜が敗れたであろう光景は遠くからでも見えていた。
ただ、それでもあんな危険な存在を単独で……?
動揺し、ざわつく自分達に、少女はその話は後だと言うように手にした白と金の杖を空に掲げた。
クリス達の肌が自然と泡立つ。
明らかに、普通の杖ではないと分かったからだ。
けれど少女は、そんな自分達を安心させる様に微笑み、聞いたことのない術の名を口にする。
否、それは魔法ですら無かった。
「祝福の
光の花びらを乗せた風が、ゴブリン達だけでなく、避難してきた村人達全員を覆い、その傷を見る見る内に、まるでそんな傷など無かったとでも云うように塞いでいく。
傷が塞がり、苦しんでいたゴブリン達が起き上がってくるのと、村人達の傷が癒されてくのを確認した少女は、その癒しの力を納めた。
その時だった。
「アリス、終わった様じゃな。」
凛とした声がこの場に響く。
先に避難していた村人達のいる方角から、もう一人見たことの無い女性……、青い獣耳と尻尾を生やした銀髪の美しい獣人の女性が、その宝石の様に青い瞳を穏やかに細め、微笑みながら歩いてきた。
それを見て、金髪の少女が嬉しそうに微笑んで近寄る。
「うん。後はあの子達の浄化をして終わりです。」
「そうか、では妾も手伝おう。2人でやれば、すぐに終わろう?特に汝は一人であの竜の相手をしておったのだからな。」
「ありがとう、フェンリル。じゃあ、さっそく始めましょう。」
そう言って、2人仲良く傷の癒えたゴブリン達の下に歩いていく姿をクリスは眺めて、ある事に気付いた。
フェンリルと呼ばれた女性が着ている、黒と青の戦闘装束の袖に縫い付けられた……、シロツメクサと狼が描かれた部隊章。
アリスとフェンリル……。
ゴブリンの前で浄化作業という、なんらかの魔法を使う2人を見て、クリスの口から自然とある単語が溢れた。
「
最近、ギルドから慎重に対処するようにと報告のあった、特殊な魔族………。
それを相手する2人の女性達に付いた、通り名が………。
―――――――――――――――――――――
第0章「ヴァルコアピラの乙女」・完
ヴァルコアピラのアリス、始まります。
よろしければ、レビュー、応援などいただけると嬉しいです。
「災い起こしのアルシア」本編もよろしければ、どうかm(_ _)m
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