第2話「燃えさかる村の竜とゴブリン・2」
「もう大丈夫ですよ、皆さん。」
目の前に立った焦げ茶色の瞳をした、金髪の少女がマントをはためかせながら、自分達を安心させる様に振り返りながら微笑む。
いきなり現れた彼女に意識が飛びそうになりながら、クリスは何とか掠れ掠れの声を絞り出した。
「君………は?」
先程の救ってくれたゴブリンといい、この少女といい、何が起きてるのか、クリスにはもう分からなくなっていた。
しかし、そんな彼を嘲笑うように、更に混乱する様な出来事が起きた。
目の前に立つ彼女の横に、美しい毛並みの、三叉の尾を持った巨大な銀狼が上空から静かに降り立ったからだ。
それを見て、少女の前に佇む悪竜が先程よりも更に大きく動揺する。
「き、貴さ…………、いや………!貴女は…………!?」
知り合いなのか何なのか………、動揺するトイフェルを無視して、銀狼は少女と何かを話した後、その体をこちらに向けて、近寄ってくる。
一瞬、身構えたが、額に4つの剣が合わさった様な十字の紋章を刻んだ顔には敵意が無いというのが見て取れ、その口で動かないクリスの身体を咥えて背に放り投げたあと、怪我をしているゾルダート・ゴブリン達とマイクや逃げ遅れた親子達を手際よく背に乗せて、一度少女に振り返った。
「行けるか?」
「うん、大丈夫。だから、あっちをお願い。」
「分かった。汝なら問題無いだろうが、無理はするなよ、アリス。」
そう言ったあと、銀狼は自分達を乗せたまま、他の村人達が避難した方向へと走り出した。
遠ざかっていく銀狼の後ろ姿を少しだけ眺めた後、少女……、アリス・リアドールは目の前の悪竜に改めて向き直った。
◆◆◆
「……何者だ、小娘。何故、貴様程度があの方と共にいる。」
未だ、僅かながらに動揺を孕んだ声で質問するトイフェルと名乗っていた竜に、私は冷たく返す。
「貴方なんかに答える必要、ありますか?」
「何だと?」
目の前の魔族の声が、動揺の混じったものから怒りの声に変わる。
やはり、フェンリルから聞いた通り、ドラゴンという種は人間に下に見られるのが嫌いなようだ。
けれど、私はそんなトイフェルの事など無視して、こちらからも質問する。
「この状況を作り出したのは貴方ですか?」
「見ての通り、我だ。」
「何の為に?」
物怖じしない私の態度に、トイフェルは一瞬、苛立ちを見せたけど、すぐに小馬鹿にした様な表情を浮かべて、その大きな声を響かせる。
「暇つぶし、だ。貴様ら人間とて、退屈なら何かしらで時間を潰すだろう?我のこれとて同じ事だ。」
「………話にならないですね。貴方はさっきの子達と明らかに違うので、ここで倒します。」
私は収納魔道具を起動しながら、腰のホルスターに挿した短剣状の特殊合金の杖、スヴェールドを抜いて、突きつけた。
それを見たトイフェルが一瞬、呆気に取られたような顔をした後、大きく笑う。
「ハハハハハハハハハ!倒すだと?蝿と変わらん貴様がか?笑える、笑えるぞ!!あの犬ころも、遂にもうろくでもしおったか!ハハは…………、ぐぶぉあ?!」
高笑いしていた竜の顔が収納魔道具から直接射出した設置型魔道具の爆発で吹き飛ぶ。
硬い鱗でダメージは無かったが、軽い挨拶程度には十分だろう。
「犬ころで、もうろくですか……。」
トイフェルが怒りを孕んだ眼をこちらに向けるが、それは一瞬で消え、じりじりと後退る。
明らかに恐怖していた。
村や人、家畜、先程のゴブリン達に危害を加えただけに飽き足らず、フェンリルの事まで馬鹿にした駄竜にゆっくり歩み寄り、満面の笑みを浮かべながら、殺気を向ける。
「覚悟してくださいね?私、フェンリルへの悪口を言う相手には一切容赦しないので。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます