丗七 六、七、八



 歌人西行さいぎょう法師が修行の旅をしてるとき、津国つのくに(大阪府、兵庫県)にある七瀬ななせの川を通りかかった。


 そこで西行さいぎょう法師は麦粉むぎこを食べた。

 麦粉むぎこというのは、その名の通り、炒った麦を粉にしたものである。湯を加えて粘つくまで練ったものをそのまま食べたり、焼くか蒸すかして食べたりする。


 そんな食べ物であるから、かなり、粉っぽい。

 西行さいぎょう法師は、うっかり麦粉むぎこを喉に吸い込み、思いっきりムセてしまった。


 そこへ、馬に乗った侍が通りかかった。

 しきりにムセる西行さいぎょう法師を馬上から見おろして、一首。



 この川は の河と 聞くものを

 お僧を見れば わたるかな



 『せ』なのに『せ』ているとはな、とイタズラ心でからかったのだろうが、相手が悪い。彼は名にしおう歌人、西行さいぎょうである。すぐさま返歌をんだ。



 この川は の川と 聞くものを

 したる馬は わたるかな



 『せ』なのに、ずいぶん『せ』た馬ですね、というわけだ。

 当意即妙、さすがの手練であった。

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