丗八 革緒に塗る血



 革草履かわぞうりを履いて歩いていた男が、うっかり足を怪我してしまった。


 ひどく血が流れているのを見て、そばの人が駆け寄った。

「これは笑止しょうし(気の毒)な。大丈夫かい?」


 怪我した男は苦笑した。

「なに、大丈夫だ。昔から『革緒かわおに塗る血』と言うからな」

「『かわおにぬるち』?」

「逆から読んだら『ちりぬるをわか』」

「あ! こりゃおもしれえや」


 よく見たら逆さ言葉でもないのだが、この人はそれに気づかず、すっかり感心してしまった。

「うまい言い方があったもんだなあ。よし、俺もやってみよう」


 そこで、わざと足を怪我して血を流した。

 そばの人が「どうしたんだ」と声をかけてきたので、満を持して一言。


「なに、大丈夫。昔から『いろはにほへと』と言うからな」

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