丗二 人ではないぞ



 尾州びしゅう(愛知県)熱田大明神で祭礼があり、身分の高い者も低い者も、みんな袖をならべて参詣した。


 ところが、この人だかりの中で妙なことに精を出すやつらがいる。

 禰宜ねぎ(神職)たちが境内のいたるところに寄り集まり、参拝者たちの着物のたもとにまとわりついて、なんやかやと理由をつけて銭をたかろうとしているのである。

 彼らの声が境内にうなり響いて、耳を覆うほどにやかましい。大神社の禰宜ねぎともあろうものが浅ましい限りである。


 そこへ、参拝を終えた百姓たちが、大勢つれだって通りかかった。


 欲まるだしで参拝者に群がる禰宜ねぎを見て、百姓の一人が眉をひそめた。

「まったく熱田の禰宜ねぎどもは。あいつら人間じゃないぞ」

 などと陰口を叩いた、そのとき。


 ふと気配を感じて、百姓は後ろを振り向いた。

 そこに、男がひとり、眉間にシワを寄せて立っていた。

 白張しらはり装束に烏帽子えぼしをかぶり、金磨きんま末広すえひろ中啓ちゅうけい。扇の一種)を持った……そう、禰宜ねぎである。


 あっ、聞かれた……

 百姓は驚き焦り、慌てて言いつくろった。

「人間じゃなくて……神様だよ」

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