廿五 秋風



 洛陽らくよう(京都)に、一噌いっそう(中村七郎左衛門)という、名のある笛吹きがいた。

 彼は弟子の一人に『秋風』という名をつけた。


 秋風は心の中で、

「『秋風は物にあう』と言う。お師匠様は、私の笛を高く評価してこの名をつけてくださったのだ。ありがたいことだ」

 と、自慢に思うこと限りなかった。


 そんなおり、同門の弟子が一噌いっそうに尋ねた。

「『秋風』の名は、どういう意味でおつけなさったのです?」


 一噌いっそうは答える。

「別に深い考えはないよ。秋風は吹けば吹くほど体に悪いだろう? あいつの笛も、吹けば吹くほど悪いから」

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