廿二 らんけるかな



 若道じゃくどう(衆道)にうとく、歌道にたどたどしく、文章にも暗い、という男がいた。

 そんな風流に縁のない男が、千松せんまつという素敵な若衆に恋をして、すっかり心を奪われてしまった。


「どういう方法で言い寄ろうか……

 昔から『歌は鬼神の恐ろしき心をもやわらぐる道』というから、これを参考にしようか」


 そう思い立ち、歌の道を知る人に、五七五七七あわせて三十一字の秘訣ひけつを尋ねた。

 その人が言う。


「歌には六義りくぎといって、ふうきょうしょう六種の様式がございます。

 また言葉の縁、つまり繋げ方ですが、これはまず梅や桜の花に心寄せて、次に思いのたけを言いつらね、最後は『らん』とか『ける』とか『かな』とかを置いて締める習わしです」


 男はこう教えられ、歌を作る力もないのに分かったふりをして、その日の夕暮れにさっそくんで千松せんまつに贈った。




 梅の花 桜の花に 鷄頭花けいとうか

 千松せんまつ恋しなるらんけるかな

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