廿一 ~ 丗

廿一 癖は直らぬ



 和泉いずみ(大阪府)のさかい車之町くるまのちょうに、商人から禅門になった者がいた。


 彼には妙な癖があった。

 貴人が差している刀や脇差、上臈じょうろう(貴婦人)や若衆の小袖こそで・帯・はかまなど、値打ちのあるものを見るたびに、銭金ぜにかねにすればいくらくらいか、その値段を言ってしまうのである。

 とにかく天然生まれつきに、そういうのが好きなのである。


 そのふるまいがあんまり浅ましいので、彼がいつも崇敬すうけいしていた東堂(住職)が、折を見て声をかけた。

「そちに大切なことを教えたい。まあ聞くがよい」

「お聞きします」

「今後、物の値段を言いあてるのはやめなさい」


 禅門は、手を合わせて拝み、拝み、

「なんとありがたいお心でしょう! ただいまのお言葉、銭百貫に値しようかと思います!」


 ……癖は直らぬ。

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