十一 ~ 廿

十一 和えもの変じてヌタ膾



 少しばかり学のある僧がいた。


 これがとんだナマグサ坊主で、

「どうせ天に目が付いてるわけでもなし」

 と、こっそりヌタなますなど食っていた。


 ヌタなますというのは、魚やイカや貝類と、ネギ、海藻などを酢ミソでえた料理である。これがもう、たいへん、美味うまい。

 仏教においては、魚介類はもちろん、ネギやニンニクなどのくん(香味野菜)も戒律で禁じられている。つまり、ヌタなますを食うなんてのは、もってのほかの破戒はかいということになる。


 ある日、一大事が起こった。寺を訪ねてきた檀家だんかの人に、ヌタなますを食べているところを見られてしまったのだ。


 ところがこの僧、いささかも焦ることなく、当たり前のような顔して話し始めた。


「おや、よい時にお越しになりましたな。ここに歴劫りゃっこう不思議の法味ほうみがある。そもそも天地の間には七十二の候があり、時がうつろうにつれ物もまた変わっていく、その奇跡についてお話ししよう。

 『田鼠モグラは化けてウズラとなり、スズメは海中に入ってハマグリとなり、ハトは変じてタカになる』ということわざがある。

 そこで、この愚僧の晩のおかずだ。ここにあったえものが、今、我が目の前で、変じてヌタなますになったのだ! この奇跡をご覧なされ!」

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