十 永源



 あるところに、永源えいげんという禅門(出家せず仏門に入った者)がいた。


 人が来て、永源えいげんに尋ねた。

「あなたの名前の『えい』は『ながい』という字だろう。『げん』は『くろげん』かい?」


「いやァ、『しろげん』だ」

 これを聞いて相手は大笑い。

 『しろげん』なんて字があるわけない。永源えいげんは字を知らないのである。


 この話を伝え聞いた知人が、

「字を知らなくて恥をかくのは気の毒だ」

 と思って、永源えいげんに教えてくれた。

「これからは、『げん』の字を問われたら『みなもと』と言えばいい」


「がってん! がってん!」

 と永源えいげんは大喜び。


 しばらく後、また永源えいげんの字を尋ねる人が現れた。

「『げん』は『みなもと』かね?」


 永源えいげんは胸を張って答えた。

「いやァ、『むなもと』だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る