四 随八百



 随八百ずいはっぴゃくという言葉がある。どういう意味かご存知だろうか?


 あるとき、結婚したばかりの婿むこが、しゅうと(義父)に挨拶しに行った。


 婿むこ慇懃いんぎんに一礼したところ、しゅうとが言う。

「今までは他人同士、よそ行きの礼儀作法で接してきたが、これからはずいいだいてくだされ」


 『ずい』というのは、気楽、気ままな気持ちのこと。つまり、今後は家族として気楽な付き合いをしよう、という意味で言ったことなのだが……


 婿むこは、『ずい』の意味を知らなかった。

ずいというものが必要なのか!」

 とビックリ仰天。ずいを手に入れるため、大急ぎで京都へ向かった。


ずいは売ってないか!? ずいがあったら買うぞ!」

 大声で叫びながら京の街を駆け回っていると、利口な者が寄ってきた。

「兄さん、ここにいる石亀イシガメ、これこそ生きたずいなんですよ」

 なんてデマカセを言って、八百文で亀を売りつけてしまった。


 婿むこは喜び、駆け戻り、

ずいをお出しいたします!」

 と、しゅうとの前で亀を歩かせたのだった。


 それ以来、好き勝手にふるまうことを『随八百』と言うようになったとか、なんとか。

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