二 ネズミの足洗い



 武家奉公人の成れの果てとおぼしき男が、宿を借りた。


 宿の亭主とよもやま話を語り尽くした後、亭主が男を褒めて言う。

「いやはや、あなた様はタダ者ではありませんなあ。さ、もうお休みなさいませ。冷えますから、夜着を持って参らせましょう」


 しかし男、妙に肩肘張ってふんぞりかえる。

「いやいや。それがしは武士でござる。いかほどの野陣山陣でも寒さを感じたことはござらぬ。夜着など無用!」

 と、そのまま横になって寝てしまった。


 ところが、夜が更けるにしたがって、やたらに寒くなってくる。


 男は亭主を呼んだ。

「時にご亭主。この家のネズミには、足を洗わせたかな?」


 亭主は首をかしげた。

「はあ? いや、そんなことはいたしませんが……?」


 男はうなずいた。

「ならば、それがしにむしろを一枚か二枚かぶせていただきたい。ネズミが着物を踏んだら汚いからな」



   *



 身ひとつは山の奥にも在りぬべし

 すまぬ心ぞ置き所なし

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