第4話 劇薬に死す(お題:本音禁止)

 その日部室の黒板に書かれたお題に、田畑は戦々恐々とした。


「ぶ……部長、これなんすか」

「本音禁止。田畑君、いつも心の声がダダ漏れだから、自制心を養った方がいいと思って」

「部長は俺を殺す気ですか」

「お題程度で死ぬ気なの、田畑君。生きなさい」


 部長のたたらに冗談は通じなかった。

 田畑はこれでもかというくらい悲しそうな顔をして、鑪にやるせなさを訴えてくる。


「俺が正直な気持ちを伝え続ければ、いつか部長がその気になるんじゃないかっていう下心の何がいけないんですか!」

「そういうところよ、田畑君。あなたチェスもポーカーも麻雀も弱いでしょ」

「全部ルール分かんないっす」


 鑪の嫌味が全く通じないくらいには、田畑は頭を使ったゲームが苦手らしい。

 呆れたように溜息を吐いて、鑪は田畑に人差し指を立てて見せた。


「田畑君。今日これから私が言うことは本音ではないので、本気にしないで。あくまでお手本よ」


 田畑はゴクリと唾を飲み込んた。覚悟を決めたかのように鑪の真ん前まで椅子を引っ張って来て、でんと腰を下ろし、


「お手本お願いします!」


 いつになく真剣な顔を鑪に向けた。


「田畑君に、私、期待しているの。きっと素敵な文章を紡ぐのだろうし、部員勧誘も積極的にしてくれるんでしょう? 三年生が引退したらもう、君しか居ないんだから、創立以来続いてきた由緒正しき我が轟木高校文芸部を背負って立つカッコいい男になれるって信じてるからね……?」


 机に両肘を付き、両手を組んでその上に顎を乗せて、鑪はニコッと妖しい笑みを浮かべた。


「ぐはあっ!!」


 ――心臓を、射抜かれた。

 田畑は叫びながら、何かに狙撃されたように左胸に両手を当て、椅子ごと勢いよく後ろにひっくり返った。

 ゴンッと鈍い音がしたが、鑪は表情ひとつ変えずに田畑の強烈なリアクションを白い目で見つめていた。


「し、死ぬ……!! 劇薬、だっ……た……!!」


 床に転げてもなお、田畑は心臓を抑えたまま悶え続けている。


「ああっ!! 部長に褒められる世界線が!! 存在した……!!」

「本音じゃないのよ、田畑君……?」

「もっと……、もっと褒めてください、部長ぉぉぉぉぉぉ!!!!」


「た、田畑君……? 本当に気持ち悪いから、やめてくれない……?」

「逆ですよね?! ってことは、部長は俺の事ぉぉぉぉ!!!!」

「違っ」

「ぶちょおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 鑪はドン引きした。

 本音ではないと前置きしたのに、全然聞いてない田畑に。

 そして、奇妙な性癖の扉をこじ開けてしまったかもしれない事実に。


「きょ、今日は帰るわね……。最後、整理整頓よろしくね……」


 あまりの気持ち悪さに、鑪はそろそろと席を立った。

 翌日、文芸部がうるさ過ぎると鑪に苦情が入ったことなど、田畑は知らない……



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Twitterで頂いたお題を元に書きました。

お題は随時募集します。近況ノートにどうぞ!

全て採用するとは限りませんが、良い感じのがあれば書きますね。

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