(2)

「おい、セイジー。こんなとこでなにぼけーっと突っ立ってんだ?」


 低くでかい声がごつんと背中に当たって、ぎょっとする。


「ああ、バクか、部活は?」

「今日は中止になった。コロナったやつが出てよー」

「あちゃあ。じゃあ、今週いっぱいアウトっぽいね」

「ちぇ。つまらん」


 ぼっちの俺が、唯一普通に話せる相手がこいつ、田端たばたばくだ。人慣れしにくい俺でも、幼稚園からの付き合いならさすがに慣れる。バクは大雑把なやつなので、俺のぼっち体質を気にしない。俺はすごく気楽なんだ。


「で、なんだ? 五百円玉でも落ちてたんか?」

「そんな幸運には今まで一度も出会ったことがないなあ。せいぜい犬のウンチ踏んじまうのがいいとこ」

「うげえ。黒猫に横切られるより実害大だな」

「もちのろん。くせえんだよ」

「え? ほんとに踏んだの?」


 えんがちょーと叫びながら後ずさったバクに、ぱたぱた手を振ってみせる。


「ちゃうって。変なやつがいるんだ。ほら」


 さっきから微動だにしない男の子を指差し、注意喚起する。


「あらま。今日、どっかでイベントとかあったっけ」

「ないよなあ。夏休みはとっくに終わってるし、今日は平日だもん。中坊っぽいけど、ガッコいいのか?」

「でも、エルフの格好がキマってるじゃん。すげえ」


 ああ! そうだ。やっと思い出せた。エルフ……妖精だったっけ。そんな感じ。納得した俺は、立ち尽くしていた男の子に声をかけた。


「そこぉ危ないよ。がんがん車通るとこだし」


 なんだろうという表情でこっちを向いた男の子は、俺とバクを見て不思議そうに首を傾げた。ちょっと独特の雰囲気だよなあ。俺たちの言ってることが理解できないっていう顔だ。もしかして、ガイジン? 俺、英語ちょー苦手なんだよなあ……。


「おい、セイジー。こいつ、ニホンゴわかってないんちゃう?」


 同じことを思ったんだろう。俺の肩越しにバクが顔を突き出した。男の子の不思議そうな顔はずっと変わらない。


「俺にも言葉が理解できてないように見える。迷子かなあ。どうすべ? 交番連れてく?」

「んだなあ」


 麦と顔を見合わせていたら。男の子がコスチュームのどっかから四つ折りにした紙切れを出して、広げた。ノートの切れ端とかじゃなく、コピー用紙っぽいただの白紙。サイズはよくあるA4くらいかなあ。


「おっ。これに連絡先が書いてあるとかか?」


 肩越しどころか俺を押し倒しそうになったバクがうっとうしい。どついて横に来させる。俺とバクとで、揃って紙切れを覗き込んだ。なになに?


「わ、の、お、と」

「はあ? なんじゃこりゃ?」


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