(2)

 最初に僕が向こうに行ったらチャムに会えるかもと言った時、門番は全力で拒んだ。僕を心配したからじゃない。指名されていないエルフを向こうに送ると、どういう事態になるかわからないからだと思う。

 門番は、指名者の命令に応じて門を開け閉めする『だけ』の役割だから、門の開け閉めを勝手に行ったらものすごくまずいことになるんだろう。まずいっていっても、どうなるのかはわからないけど。でも、僕がここを出るならどうしても門番に門を開けさせなければならないし、そうさせるには失敗したと思い込んでいる思い込みを利用するしかないんだ。


 本当なら僕とチャムがトウゴウされて向こうに行くはずだったのに、チャムだけが送り出され、僕はハグレになった。結果だけを見れば、確かに門番の失敗なのかもしれない。でも門番の仕事は門の開け閉めだけ。失敗なんてしようがない。特殊ななにかが影響したから、チャムだけが『呼ばれた』んだろう。

 冷静になった門番が、自分はしくじったわけじゃないと気づいてしまったら。僕を向こうに送り出すのはやっぱり規則違反だと判断されてしまう。虫けらとか阿呆とか一匹とか言われた腹いせも兼ねて、僕は門番を目いっぱいあおった。


「失敗の穴埋めができるからいいでしょ。元々は僕も向こうに送られる予定だったんだし」


 門番が悔しそうに地団駄を踏む。


「くそおっ! 阿呆のエルフごときが偉そうな口を利きやがって! わかった! 向こうに送ってやらあ! だが、もう一度言っておく。おめえの相棒に会えるとは限らねえし、ここには二度と戻ってこれねえからな!」

「うん」


 チャムのいないエルフランドに居続ける意味はもうないんだ。マザーに会えなくなるのがちょっとだけ残念だけど。マザーは普段から僕やチャムを構ってくれなかったから、もし僕が戻れたとしても相手にしてくれないだろう。


「さっさとやってよ」

「けっ!」


 僕がさっき目撃したのと全く同じだった。立っている僕の周りをすたすたと一周し、屈んで拳で地面を叩く。次の瞬間、僕の足元に大きくて真っ黒な穴がぼこりと空いて。僕はその穴の奥に吸い込まれていった。

 エルフランドを出る僕は追放されたんだろうか。それとも僕自ら脱出したのだろうか。僕の頭上に門番の残した捨て台詞がいつまでも漂っていた。


「とっととどこにでも行きやがれ! ちくしょうめ!」


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