第五話 脱出
(1)
考えが散らかったままでちっともまとまらないけど、門番がこのあといなくなってしまったら僕がここでできることは何もなくなってしまう。
これまでどんなに探しても新しいことは何一つわからなかったんだ。僕がここを出ないとチャムとぺらぺらの手がかりが何も得られない。エルフランドが閉じている以上、ここを出るチャンスは門番がいる今しかないんだろう。
「ねえ、門番さん」
「なんだ」
「チャムが僕を残して消えたのは異常だって言ったよね」
認めたくないんだろう。そっぽを向いたまま渋々頷く。
「ああ、そうだ。少なくとも俺はそんなケースがあるってことは知らねえし、聞いたこともねえ」
「じゃあさ、僕がここを出たらチャムのところにたどり着ける可能性がある?」
「はああっ?」
目を剥き出して、門番が僕の顔を凝視する。
「おめえ、何言ってるかわかってるか?」
「わかってるよ」
「わかってねえ!」
門番がつばを飛ばしながらがあがあがなった。
「あのな、ここを出たら最後、ここには戻ってこれねえ。俺はさっきそう言ったよな」
「うん」
「もし運良くそのチャムとかいうやつに会えたとして。トウゴウなしでどうすんだよ!」
さっきから何度か出てるトウゴウってコトバ。僕にはそれがなんのことかさっぱりわからない。
「ねえ、そのトウゴウってなんなの? わかんないんだけど」
「ちっ! 知らされてねえってことか。そうだろなあ」
ぶつぶつ言いながら、門番が足元の土を蹴り上げる。
「俺だって詳しくはねえさ。だが、おまえらは一匹じゃなんの役にも立たねえんだ。束ねないと使えねえ」
一匹っていうのがすごくむかつくけど。イメージがおぼろげに浮かんできた。トウゴウっていうのは、僕とチャムとを混ぜて一つにするっていうことなのかな。
「……」
嫌だ。それは僕が初めて抱いた感情だったかもしれない。チャムは僕の片割れで、大事な相棒だ。でも、チャムと一つになろうとは思わない。僕が僕で、チャムがチャムだからこそ、僕らには意味があった。一つにされてしまうと、どっちかが消えてしまうんじゃないかな。それは嫌だな。
いやいやいや。慌てて考え直す。門番が言ったみたいに、僕らはトウゴウされてない。チャムに再開できるまではずっとそのままだろう。消えてしまったチャムを見つけ出すことが最優先で、トウゴウとかなんとかは、そのあとで考えればいい。
「ねえ、門番さん」
「だから、なんなんだよ!」
いらいらが頂点に達してるんだろう。だんだん門番の言葉遣いが荒っぽくなってきた。でも下手に冷静になられるより、かっかしてた方がここを出られる可能性が高いだろう。構わず話しかけた。
「門番さんは失敗して、チャムだけを向こうに送っちゃったんだよね」
「ぐ!」
怒鳴り返したいけど、プライドが許さないんだろう。真っ赤な顔でぶるぶる震えながら僕を睨んでる。構わず続ける。
「じゃあさ。残った僕も、今向こうに送っちゃってよ」
「なんだとう?」
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