(3)

「わあああっ! 待って、待ってえええっ!」


 どこかに帰るようなそぶりをみせていたずんぐりむっくりの背中に向かって大声で叫ぶ。ぎょっとしたように振り返ったずんぐりむっくりが、のけぞって驚いてる。


「おいおいおいおい、おまえなんか呼んだ覚えはねえぞ?」


 あ、やっぱりか。『呼んだ」って言ったよな。


「さっきのエルフは呼ばれたの?」

「ご指名だよ」

「ごしめい? あなたじゃない、誰かが呼んだの?」

「知らねえよ。俺は指名されたエルフを呼び出して、向こうに送るだけさ」


 向こうに送る、か。きっとそこはエルフランドじゃないんだろう。じゃあ、行き先はどこ? 行ってからどうなるの? 聞きたいことは山ほどあったけど。ずんぐりむっくりは見るからに面倒臭そうだった。


「おまえは呼んでねえ。とっとと帰れ」

「そうは行かないよー」

「なぜだ?」

「僕の片割れが消えてる」

「な、なんだって?」


 僕が突然現れた時以上に、ひっくり返りそうな勢いで驚いてる。


「ちょっと待て。そんなん、絶対にありえねえよ!」


 血相を変えて、ずんぐりむっくりが僕に食ってかかった。


「え? そうなの?」

「呼ばれた時点で、おまえらはトウゴウされるんだよ。何匹いてもな」

「……?」


 話が全く見えない。それに『何匹』っていう言われ方はないよなー。


「トウゴウってなに? さっぱりわかんないんだけど」

「訳わかんねえのは俺の方だ。なんでおめえみたいなハグレが出る? そんなん、絶対にありえねえ!」


 怒ってるというより、本気でおろおろしてる。何か失敗しちゃったとかかな。でも、これで一つだけ確かめられたことがある。チャムみたいな消失の仕方は滅多にない……っていうか、ずんぐりむっくりの言い方を借りれば『絶対にありえない』ことなんだろう。とんでもなく異常なんだ。


「じゃあ、やっぱりこれが絡んでるのかな」

「これ?」

「うん。チャムが消えた時に、代わりにこれが残ってたんだ」


 あのぺらぺらを出して、ずんぐりむっくりに見せた。でも、反応はマザーと同じ。なんじゃこりゃという表情だ。


「あなたは、この模様を見たことある?」

「ねえよ。こらあ俺には読めねえな」

「読む?」


 初めて聞く言葉が出て来た。


「読むって、なに?」

「阿呆のエルフは知らなくていいことだ」


 阿呆? すっごくむかついた。何も知らないから、こうやって探索しまくってるんじゃないか! でも、ここでずんぐりむっくりの機嫌を損ねたら、大事な情報がもらえなくなるかもしれない。気持ちを切り替えよう。


「あなたはここで何をしているの?」

「見ての通りだよ。俺は門番ゲートキーパーさ」


 本当はさっさとどこかに帰りたいんだろう。投げやりでいい加減な言い方だった。それはともかく。門番がいるんだから、確実にここを出られる門があるんだ。実際、さっきのエルフはここを出た。出てどうなるのかはわからないけど、ずんぐりむっくりのところに門があって、門を開けられるのは彼だけなんだろう。


「あなたの名前は?」


 聞いてみる。このままだと口が滑って『ずんぐりむっくり』って言ってしまいそうだ。でも、門番は変なことを聞きやがるっていう顔でぺっと否定した。


「名前だあ? そんなもんはねえよ。俺はただの門番だ。向こうにエルフを供出する時だけここに来る。あとは寝てる」

「寝てるって……どこで?」

「さあな。俺にもわかんねえ」


 うう。門番の言ってることがちっとも理解できない。


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