第四話 ゲートキーパー

(1)

 エルフランドが風の壁で囲まれて閉じちゃってることがわかってから、僕はどこかに出入り口がないかを探し続けた。葦原の中を気が遠くなるくらい探したし、森の中もしらみつぶしに調べた。でも、どこにも出入り口っぽいものは見つからない。何度も何度も探索を諦めてホームツリーに戻ろうと思ったけど、あのぺらぺらに書かれてる四つの模様がどうしても気になってしまう。だから執念と諦めがせめぎ合う中、出入り口探しをだらだら続けたんだ。


「うーん、出入り口なんてどこにもないのかなあ……」


 柳の枝に腰をかけて、チャムが消えた時どうだったかをもう一度思い返してみる。突然消えたように感じたけど、あのぺらぺらが目隠しみたいになってたから、本当はどこかに引っ張られたのかもしれない。非力で軽い僕らは突風に太刀打ちできない。強い風が押し寄せるとすごい勢いで飛ばされるんだ。そして飛ばされていった先

は……。


「森じゃなく、葦原なんだろうなあ」


 僕やチャムがいたホームツリーの箱柳は、森の一番端っこにある。箱柳の他はぼさぼさの低い木がまばらに生えてるだけ。僕もチャムも景色なんかに興味がなかったから、森の外側がどうなってるのかなんてまじめに考えたことはなかったんだ。

 森を突っ切るならともかく葦原の方に引っ張られたら、僕らの姿はすぐ背の高い葦に隠れて見えなくなるだろう。それならいきなり消えたように見えても不思議じゃない。だから葦原のどこかに出入り口があるんじゃないかって考えたんだけど……。


 振り返って、森をじっと見る。いかにエルフの興味対象が狭いっていっても、森の中に出入り口があれば誰かがそれを見つけるはず。エルフはおしゃべりしかすることがないから、見つけた珍しいものは必ず話のネタにするだろう。噂話になれば僕やチャムの耳にも入ったはずだ。だから、おそらく森の中には出入り口がない……。


「あっ。そうとは限らないのかあ」


 厄介な可能性に気づいてしまった。出入り口は、特別な時、ほんの一瞬しか現れないのかもってことに。


「ううー」


 思わず頭を抱えてしまう。もし出入り口の場所がわかっているなら、現れるまで僕は待てるよ。いつまでもね。でも、どこに出入り口があるのかわからないんじゃ待つ意味がない。思ったより狭いっていっても僕にとっては十分広いし、エルフランド全体が見下ろせる高さまで上がると風が不安定で姿勢が制御できなくなる。上からずーっと見張り続けるのは無理だ。


「どうしよう……」


 エルフランドの外に出てチャムを探すのは、もう諦めないとならないのかなあ。柳の幹によりかかって途方に暮れてたんだけど。僕は偶然二度目の消失を目撃することになったんだ。

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