(3)
僕がエルフランドの上空を何度も上昇、下降して見回している間に気付いたことがある。本当に狭いのはエルフランドそのものじゃなくて、その中にいるエルフたちの繋がりだってこと。どのエルフも、ごく僅かな仲間としか会話をしていない。僕のような異分子が近寄っていっても、拒絶される以前に無視されてしまう。まるで僕が始めからそこにない存在であるかのように。
どんなにエルフがいっぱいいるホームツリーでも、そこでエルフたちが活発に行き来しておしゃべりしてるっていう雰囲気じゃなかったんだ。エルフの小さな群れが肩を寄せ合っていて、その中でだけ会話を交わし、すぐ隣の群れとすら行き来していない。
チャムが消えたみたいなことが滅多に起こらないのかしょっちゅうあるのか、それはまだ分かんないけど。でも、消えちゃうかも知れないってことを誰も考えてないし、もし誰かが実際に消えてしまっても消失を誰も気にしてないんじゃないかなあ。
僕がチャムの消失を気にしたのは、箱柳の群れがうんと小さかったからだ。だってマザーはいつも寝てばっかで僕やチャムにかまってくれないから、僕かチャムのどっちかが消えれば即座に群れが壊れてしまう。独りになっちゃうんだ。そして僕は今、実際に独りになってる。
「待てよ」
森の縁にある無人の枯れ木に腰を下ろして、もう一度よく考えてみる。エルフランドがエルフの小群の寄せ集めで、それぞれの群れが他の群れに関心を持ってないとすれば。チャムみたいに消えちゃったエルフが出た群れからは、僕みたいな外れエルフが必ず出て来るはず。
そして、今僕がどの群れからも無視されているように、外れエルフはどこにも帰属出来なくてただうろうろするしかないんだよね。でも、何度確かめても僕みたいなのは僕しかいない。
「つーことは、だ」
チャムが突然消えたのは、とても珍しいことなんだろう。マザーがすごく驚いてた通りなんだ。
いや、それはともかく。このままじゃ、僕の欲しい情報が誰からも、どこからも入ってこない。エルフランドは予想外に狭くて、僕以外のエルフたちはほとんど交流したがらない。うそ寝ばかりのマザーとそんなに違わないんだ。僕がチャムの行方を探そうとするなら、情報すらもエルフランドの外で探さないといけないんだろう。
でも。外に出られる出入り口なんか見たことがない。どこにあるんだろう? 森の中にはなさそうだ。何度も出入りして確かめたけど、そこにはマザーツリーとエルフたちしかなかった。森の縁……僕やチャムのいた箱柳の木があるところにもそんなのはない。そして、今いる葦原をどんなにじっくり見渡しても出入り口は見当たらない。じゃあ、チャムはどこからここを出たの?
明らかになることより、わからなくなることの方がどんどん増えていってしまう。どうしよう……。
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