第69話

 文化祭当日。


 空の色は、どんよりとした灰色。

 普段使っている日傘で小雨を凌ぎながら、翔は登校した。


 翔たちキャストがCAの衣装に着替え、お客さんを迎え入れる準備ができた後、クラス全員で円陣を組んだ。

 姫奈は一人、円陣の外側で距離を取っていた。


「今日は少し天気が悪いですけど、やるべきことに変わりはないです。今まで準備してきたことをやりきって、クラス売り上げ一位を目指しましょう!」


 学級委員長の一言で、クラスが一致団結した。


「よし、では各自持ち場に着きましょう」


 翔は姫奈に声をかけに行った。


「姫奈」

「あ、翔くん」

「今日は頑張ろう」

「うん、お互いにね」


 短いやりとりだったが、姫奈は翔の声かけを喜んでくれたみたいだ。翔に手を振りながら笑顔でキッチンの持ち場に向かった。


 そうして、カフェ「そらの旅」がオープンした。

 生徒玄関でビラ配りをしてくれているクラスメイトたちの働きもあってか、雨にも関わらず想定より多いお客さんが午前中から来店した。


 お客さんの中には、翔の両親と祖父母までいた。祖母は席に着くなり、接客を担当することになった翔に、

「七瀬翔っていう子が、このクラスにおるんやけど、連れてきてもらえんやろうか。私、その子の祖母で、今日は孫の晴れ舞台なんです」

 なんていうから、翔が、

「今日は来てくれてありがとう、おばあちゃん」

 と答えたら、腰を抜かして驚いていた。


「まぁ……! 翔ったら綺麗になって!」


「なに翔、お前は女になったのか?」

 祖父まで会話に割り込んできて、話がややこしくなる。


「言っとくけど、この格好は今日だけだから」

「そうか……。残念やな」

「いや何が?」


 祖母は能天気に笑う。

「なんにせよ、頑張っとる翔が見られて、私は嬉しいよ」


 翔が祖父母とそんなやりとりをしていると、横から哲太が注文を聞きに来た。


「もしかして哲太くん⁉︎」

 翔の母は驚きの声をあげる。


「はい。五十嵐哲太です。いつも翔くんにはお世話になっております」

「こちらこそ、いつも翔の面倒を見てくれてありがとうございます」


 哲太と母親は頭を下げあう。

 恥ずかしくて居ても立っても居られなくなり、翔は哲太を客席から引きはがした。


 結局一時間近く滞在した四人は、「チェキ撮影」のメニューまで注文して、翔や哲太たちと写真を撮るなどした後、とても満足した様子で教室を後にした。



 その後も「そらの旅」は順調に集客を伸ばしていった。人気投票企画が予想以上に大きな反響を呼んでいるのも、その一因だ。ちなみに人気投票の暫定順位は、一位が翔で、二位が哲太。二人は僅差で、三位以下も上位の二人に食らいついている状況だ。


 この調子でいけば、クラス売り上げ学年一位は確実だ。さらに全校でもトップになれるかもしれない。そして人気投票でも一位になれるかもしれない。


 だが、そんなときに事件が起こった。

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