第44話
それに対し曽良島が自分を指さして「俺?」とおどける。
「なんで曽良島くんなの。違う違う。曽良島くんじゃなくて、そらちゃん。苗字は……、なんだっけ?」
「……みな、みの……!
もう一人の女子が皆に確かめるように言った。
曽良島と柳葉は目を合わせて頷いた。
「そんな名前、だった気がする……」
「男勝りな子だった記憶があるな」
「でも俺たち、どうして忘れてたんだろ? 喧嘩を仲裁してくれた大恩人の名前を」
彼女は腕組みして、ゆっくりと氷を解かすような口調で当時を振り返る。
「でもあの子、たしか自分のことを本名とは違う名前で叫んでた気がする。たしか……」
「プリンセス!」
最初にそらちゃんの名前を思い出した女子が、すかさず声を被せた。それと同時に、曽良島と柳葉も何かを思い出して「あ」と口を開けた。
「だから俺たち、あの子の本当の名前を忘れてたのか」
「思い出した気がするぞ。俺たちが喧嘩してた時も、プリンセスが仲裁してくれたんだ。あのころ流行ってた女子向けのアニメみたいに」
「うちら世代はみんな見てたよね、太陽に代わってお仕置きー! みたいなやつ」
女子たちは手紙開封を忘れて、そのプリンセスの真似をして盛り上が始めた。柳葉と曽良島の二人も、やれやれと言いながらも楽しそうにその様子を見守っている。
そんな中、姫奈だけは、地面に散らばっている手紙を漁っていた。今日の姫奈は、リボンのついたセーラー服風のワンピースに白いハイソックスを合わせていたのだが、四つん這いになって動き回っているせいで、可愛い衣装がすっかり汚れてしまっている。
翔は慌ててしゃがんだ。
「オレも探す」
姫奈は無言のまま、手紙を探すのに集中していた。だが、散らばった手紙の中から一枚を、カルタ取りのように素早く抜き取ると、膝立ちになって抱きしめた。
「あった? そらちゃんの手紙」
翔が尋ねたが、姫奈はその手紙を読むのに集中していて聞こえていないようだ。翔が手を差し出したら、姫奈は少しだけ体を捻じって翔に背を向け、手紙を隠すようにした。
皆の注目が姫奈に注がれるなか、姫奈は微かに笑みをこぼしながら振り返り、手紙を裏返して全員に見えるようにした。
「そらちゃんの名前が書いてあるわ。翔くん、良かったわね」
太陽に照らされたその手紙には、こう書かれている。
『わたしはいつか、おおじさまとけっこんしたいです。わたしをほんもののプリンセスみたいにたすけてくれたおおじさま。またあえますように』
王子様。夢見がちな少女が書いた、可愛らしい手紙だ。そして、差出人の名前には、こう書かれている。
『ななせ そら』
「そらちゃんは、オレとの約束を覚えていてくれたのか」
翔は思わず頬を綻ばせた。
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