第29話

 バイト終わりの帰り道。


「みみちゃんのこと、どう思う?」


 隣を歩く姫奈が、突然そう言った。

 ピッタリと揃っていた歩調に少しだけズレが生じる。小刻みな姫奈の靴音が、翔の答えを求める。

 翔は質問の意図を測りかねて、曖昧に答えた。


「どう、って?」

「最近、少し変わったと思わない?」

「……そう?」


 翔のそっけない返事に対し、姫奈はため息をつく。


「翔くんって、やっぱり鈍いわよねー」

「だから、何が?」

「哲太くんよ。哲太くんと一緒にいる時のみみちゃん。やけに楽しそうだと思わない?」

「そういえば……」


 今日、四人で連絡先を交換したとき、哲太の連絡先を手に入れたみみちゃんは、言われてみればやけに嬉しそうだった。「ふわー」という特殊なため息がその証だ。

 みみちゃんは無自覚に、嬉しいときに「ふわー」と言う。哲太の連絡先を手に入れられたことが、相当嬉しかったのだ。


「ん? ってことは、まさか——」

「まあ、まさかよねー」


 姫奈の声は、ようやく気付いたのか、と言いたげな響きを含んでいた。


「ねえ、私が入院しているとき、二人の間で何かあったの? あれくらいからじゃない? みみちゃんが少し変わったの」


「ああ、そうだ……。うさぎジャムパンの話、覚えてる?」


「覚えてるわよ。哲太くんがみみちゃんのために、購買のうさぎジャムパンを買ってあげたって話でしょ? ……そっか、そのときに二人は知り合ったのね。それがきっかけで……」


 まさか、みみちゃんが哲太に想いを寄せているなんて。

 姫奈に指摘されて思い返してみれば、合点がいく点もあるが、翔にとっては意外だった。

 なぜなら——


「みみちゃんは、恋愛とか、男子とかに興味がないはずだけど」


「私もそう思ってた。だけど最近のみみちゃんは、少し色が変わったのよ」


「色……?」


 姫奈は「あ」と何かに気付いて、慌てて訂正した。


「色っていうのはアレよ、女の勘みたいなものよ」


──色って何だ? 何の色だ?


 翔の心の問いに答えるように、一つ大きく息を吸った姫奈は「あのさ、」と話を切り出した。


「今から私が言うこと、笑わないで聞いてくれる?」


 低めの声のトーンから、それが真面目な話だと察する翔。「うん」と続きを促す。


「見えるのよね、私。影の色が」


「え……?」

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