第24話

 翔は次の日から姫奈に代わって平日もバイトに入るようになった。

 恭子さんには姫奈のことを正直に言った。一週間後には戻って来ると伝えると、復帰祝いのケーキを作っておかなきゃね。と張り切っていた。


 姫奈がいない教室は、何か物足りない感じがした。良く言えば落ち着いた雰囲気。だけどクラスメイト全員がどこか寂しげな雰囲気をまとっているように、翔には見えた。苺の乗っていないショートケーキのようなものだ。それくらい、元気印の姫奈が教室にいないのは不自然なことだった。



 姫奈が休み始めて3日目のこと。


 翔は昼ご飯を、いつも通り哲太と二人で食べた。食べ終わると、哲太は「購買に行ってパンを買いましょう」と言い出した。


「哲太氏、急にどうしたんですか?」


「いえ、今日はそんな気分なのです」


「もうお弁当食べて腹八分目くらいなのですが」


「あと2割入ります。落ち込んでいる時こそ、ちゃんと食べないといけませんよ」


 落ち込んでいるわけではないんだけどな、と翔は思ったが、哲太が財布を手にして席を立ってしまったので、翔もついて行かざるを得なくなった。


 先を歩く哲太の背中を見ながら翔は思った。もしかしたら哲太は、自分のことを気遣ってくれているのかもしれないと。姫奈が休んでいるから、落ち込んでいると思われているのだろう。

 翔は後ろから哲太の肩に腕をかける。


「哲太氏、気遣ってくれてありがとうございます」


 哲太は、それによって少しズレた眼鏡を、指で何度か押し上げる。


「いえ、小生はただ、いつもよりお腹が減っていただけなのです」


「オレってそんなに顔に出てましたか?」


 恩を着せないようにするためか少し誤魔化していた哲太だが、翔が尋ねると素直に答えた。


「おそらく、ご自分が思っている以上に分かりやすいですよ。以前までの翔氏は、なんだか他人に興味が無いみたいにポーカーフェイスでしたが、最近はすごく顔に出るようになりました」

「まじですか」

「マジです」


 翔は哲太の肩から手を離し、自分の顔を触った。

 無自覚だった。だけど原因は、はっきり分かっている。


「今日は小生が奢りますよ。パンが無くなる前に急ぎましょう」


 哲太は足早に購買へ向かう。翔もそれにつられて歩いた。

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