第15話

「駅、着いたな」


 会話の歯車が回り出してからは、駅までの距離がとても短く感じた。

 ゲージが開け放たれた時のうさぎのように、みみちゃんは改札の方へ駆け出す。そして翔の方を振り返り、深々と頭を下げた。


「ありがとう、なの。七瀬くんのおかげで、ちょっぴり自信が持てた気がするの」


「それはよかった。これからもよろしく」


 翔は手を振り、ラブラビへ戻ろうとした。

 するとみみちゃんが再び近寄ってきて、「あ、あの……」と言い出しにくそうに声を出した。


「……あの、優しい七瀬くんに、お願いがあるの」


 さっきまで柔らかな笑みを浮かべていたみみちゃんは、真剣な顔をしていた。


「姫奈ちゃんを、ちゃんと見ててほしいの」


「姫奈を?」


 みみちゃんは頷く。


「姫奈ちゃん、いつも無理しちゃうから、心配で。私が『大丈夫?』って聞いても、絶対に『大丈夫!』としか言わないの。だから、お話を聞いてあげてほしいの」


 翔が話の続きを促すより先に駅のアナウンスが響き、二人をを引き離す。


「あ、そろそろ行かなきゃなの。また今度なの」


 遠ざかるみみちゃんの背中に、翔は小さく手を振る。

 彼女は歩きながらも何度かこちらを振り返って、ペコペコ頭を下げながら遠ざかっていった。


 彼女の話は少し抽象的だった。しかし嘘をついているようには思えない。

 となると、姫奈がいつも無理して明るく振舞っているという話になるのだが、翔は全く気付いていなかった。


「もしかして——」


 謎が多い姫奈の行動の意図は、今のみみちゃんの言葉に繋がってくるのかもしれない。

 姫奈ともっと話そう。

 翔は踵を返し、急いでラブラビに戻った。

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