第12話
そんなみみちゃんは、お客さんがいなくなったタイミングで、モジモジしながらカウンターのところに来た。
恭子さんは壁掛け時計を見て「あらもうこんな時間」と言った。
時刻は19時45分を回っていた。
「みみちゃん、今日はありがとうね」
みみちゃんは20時までのシフトらしい。「そろそろ帰る準備をしたいです」と言いにくかったみたいだ。
恭子さんにペコリと頭を下げると、彼女はバックヤードへと消えた。
すかさず姫奈が翔の隣に近寄って来て、耳打ちした。
「みみちゃんを駅まで送ってあげてよ」
「そうしたらお店が——」
「いいのいいの。夜の時間帯はほとんどお客さん来ないから、私と恭子さんがいれば余裕で対応できちゃうし。それよりも、みみちゃんの身の安全の方が大切でしょ?」
そこに恭子さんも割り込んできた。
「姫奈ちゃんの言う通り。閉め作業はまた今度教えるから、ね」
翔は頷いた。
恭子さんは「でも……」と言いながら、姫奈の方を向く。
「姫奈ちゃんは、本当にそれでいいの? 一緒について行っても——」
「私のことは気にしないでよ。二人が仲良くなってくれたら私は嬉しいもん!」
「そう。ならいいんだけど」と、恭子さんは頷き、姫奈の提案を呑んだ。
翔は二人の言いつけに従い、エプロンだけ脱いで、外に出る準備をした。
やがて着替えを終えたみみちゃんがバックヤードから現れた。翔が駅まで同伴するという話を二人から聞かされたみみちゃんは、つぶらな瞳をぱちくりさせながら翔の顔を見て、一歩距離を取った。明らかに警戒されている。
それを察した姫奈は、緊張をほぐすために後ろからみみちゃんに抱きついた。
「大丈夫。翔くん優しいから。大体のことは頼めばやってくれるし、荷物持ちさせてもいいよ」
「おい」
「冗談冗談。でも、二人はこれからバイト仲間になるわけだから、仲良くするのは大事じゃない? その練習だと思って。ね!」
姫奈はみみちゃんの背中を押す。弾かれるように、みみちゃんは翔に歩み寄った。
「それじゃみみちゃん、今日はありがとうね」
恭子さんと姫奈に見送られ、翔はみみちゃんと並んでお店を出た。
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