第10話

 その時、店のドアが開く音がした。

 翔はドアの方を振り返る。しかし誰も立っていない。


「お、おはようございますぅ」


 か細い声が下の方から聞こえた。視線を落とすと、小柄な女子がドアに隠れるように立っているのを見つけた。

 その子は姫奈と同じで胸元に学校指定の赤いリボンを着けている。ということは、翔たちと同じ学校の生徒のようだ。


「あ、みみちゃんだ!」


「わー、みみちゃん今日も可愛い!」


 翔のそばにいた姫奈と恭子さんは一目散に彼女の元へ駆け寄る。


「翔くん、この子は一緒にラブラビでバイトしてる、みみちゃん! 私たちと同じ九女川高校の二年生で、D組の生徒なんだよ」

 翔たちはA組だから、D組とはかなり教室が離れている。だからか、翔は彼女に全く面識がなかった。


「ぅ、宇佐見聡美うさみさとみ、です。よろしくお願い、します」


 つぶらな瞳をキョロキョロと迷子にさせながら、彼女は赤べこのように頭を上げ下げする。まるで翔という巨人の前で命乞いをしている小人のようだ。姫奈も女子の中では背が低くて華奢な方だが、彼女はそんな姫奈よりもさらに背が低い。ショートボブの髪型と、額に着けられているうさぎっぽい形をしたヘアピンが、彼女の幼い印象を助長させている。ランドセルでも背負ったら小学生に見間違われても不思議ではない。


「翔くんも『みみちゃん』って呼んであげて」


「……み、みみちゃん、よろしく」


「……、……はぃ」


 みみちゃんは顔を真っ赤にしながら会釈をし、カウンターの裏へと消えていった。

 その後ろ姿を見ながら、姫奈と恭子さんはつぶやいた。


「癒される~」

「……天使!」

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