第4話
楽しそうに笑う彼女は、翔に見つかったことを焦っている様子が微塵もない。それどころか、ようやく見つけてくれたと言わんばかりに嬉々とした足取りで翔に近付いてきた。
翔は不審な目を姫奈に向ける。
「何の用?」
「翔くんに本当に好きな人がいないかどうかを探るには、後をつけて直接確認するのが一番早いでしょ?」
当然のように言い放つ姫奈には、悪びれる様子など一ミリもない。
翔はため息をついた。
「オレは本当に、誰のことも好きにならない」
「どうして? 何か理由があるの?」
「それは……」
明確な理由はある。だが、今日初めて話した間柄の彼女には言えそうにないことだ。
「まあ仕方ないねー」
言いよどむ翔を見かねるように、彼女は手を頭の後ろに組んだ。
「でも、私は諦めないからね、翔くんが好きな人を見つけること」
「どうしてそこまで……?」
「え? 内緒っ!」
蠱惑的な表情と共に人差し指を唇に当てる姫奈。その仕草は計算して作られた大人びたものではなく、子供がいたずらをするときの純粋な遊び心からくるもののようだ。翔は、だからこそ余計にタチが悪いとも思った。
しかしこちらも一つ内緒にしてしまったことがあるから、何も文句は言えない。
「じゃあまた明日ねー」
駆け出した姫奈。だが、安堵した翔を騙すみたいに急に振り向き、
「その日傘、似合ってるよ」
それだけ言い残して帰っていった。
結局彼女の行動の意図は分からないままだった。
それにしても、今日初めて話したばかりだと言うのに、いきなり自宅までつけてくるなんて。本人は合理的な方法をとった結果としてこうなったような口ぶりだったが、普通の女子高生はそんなことをしないだろう。まだ初日だが、彼女の行動の異常さを身をもって知った。
翔は一年生の頃から姫奈に興味を持っていた。いつか話してみたいと思っていた。
だが、実際に話してみて、そう思っていたことを少し後悔し始めた。
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